初めての狩り
第1章が始まります。
説明台詞など読みづらい部分もありますが、読み飛ばしていただいても楽しめるかと思います。
が、伏線もあるので読んでいただけると喜びます。
ギルドへの登録が完了し、プロリンからこの世界のことを色々と聞いた。
ハルトなりに要約すると、このようになる。
『1.魔法がある。』
属性などの種別はなく、訓練して使えるようになる。その威力や精度には、魔力が関係する。
『2.ペプトは、プロト王国の町の1つ。』
プロト王国は剣や槍の武器をはじめ、己の拳を使うような武術が得意なものが多い。そのためか、軍国主義であるように思われる。
『3.諸外国として、アシル王国やカハイド王国がある。』
3国は互いに不可侵条約を締結しており、ここ数十年は戦争などもない。
『4.ギルドは、ある程度大きな町であればどこにでもある。』
また、一度登録すれば他の場所でも問題ない。魔法で情報が伝達されるためだ。
ざっとこのようになった。
「色々とありがとう、勉強になったよ。」
「いえいえ、これが仕事ですから。ところで、宿屋などの手配は終わっていますか?」
「そういえばまだだったな。というか、一文無しなんだが・・・」
「・・・そうでしたか。では、素材などの収集をされてはどうでしょう。依頼の受注は無料でできますが、失敗した場合はペナルティが課せられます。
しかし、採集であればそのようなことはありません。魔物を狩って頂いても、薬草などを持ってきてくださっても、ギルドで買取致しますよ。ただし、」
「本当にありがとう!助かったよ!」
ハルトは会釈して、森に向かって駆け出した。
「魔物も出るので・・・って、行ってしまいました・・・」
―――
町を出て少しすると、目的地の森に到着した。
「いよいよ俺の異世界での冒険が始まるっ!!さあ、薬草でも集めよう!」
ハルトはチキンであったが、知力はある。そのため、なぜかどれが薬草なのかわかるのだ。
狩りはしない。怖いから。
そして、森にやってきた。難なく薬草を見つけ・・・られると思っていたが、甘かった。
薬草があるにもかかわらず、なぜか町人が手を出さずギルドが買い取りをしている。
「魔物が出るから薬草が採れないわけか・・・」
目の前に現れたのは、体長3mはあろうかというグリズリーのような魔物。
チキンは、森の中、クマさんに、出合った。
「グオオオオ!!」
威嚇され怖くなったチキンは、一目散に逃げだした。
ところが、クマさんは、後から、ついてくる。
(やるしかないっ)
反転し、グリズリーに向かっていく。相手が巨大な爪をこちらに向けて飛びかかる。
「これでもくらえええ!!」
「グアアア・・・」
チキンの手羽・・・ハルトの拳が、グリズリーの顔面に直撃した。
グリズリーは飛んで行った。
「あ、あれ・・・こんなに強かったのか・・・」
能力が反転し、力が強いことを予想していたハルトであったが、想像以上の力に驚いていた。
飛んで行ったグリズリーの死体を見つけるべく、奥に入ることにした。
途中で薬草を見つけたため、それは採取する。
体長2m近いイノシイのような魔物にも遭遇したが、今度は先制の拳でノックアウトした。
力加減を覚えたので、今度は吹き飛ばさない。
チキンも卒業したらしい。
「探すのも面倒だし、今日はこれを持って帰ろう。最悪これを食べて野宿かな・・・」
イノシイを背負い、引きずってペプトへ戻った。
町中をイノシシを引きずって歩いていると、町人達から歓声のようなものがあがっていた。
「「「「うおおおお!!ファントムボアを倒しやがった!!」」」
盛り上がる町人たちを背に、スタスタとギルドへ向かう。
チキンに再入学したハルトは、照れくさそうに歩いていく。
(もしかして、結構強かったのか?こいつ・・・)
ギルドへ入り換金をしに行くと、職員が固まっていた。
「えっと、これを換金してほしいんだけど」
「こ、これはファントムボア・・・。ムーングリズリーとともに、最近町の近くに現れて周囲を荒らしていたモンスターですよ!ハルトさんが倒して下さったのですか!?」
プロリンは驚きを隠しきれない様子だ。
「旅人というお話しでしたが・・・ギルド登録も市民でしたし・・・。まさかお一人で倒されるとは・・・。」
プロリンは確かに、「特に何もなければ市民」と言ったのだ。ハルトが特技も技能も何もない旅人だと判断するのは無理もない。
ただ、ハルトがチキンだということを見落としただけである。
「ああ、殴ったら1発だったぞ。」
「「「「「ええええええっ!?」」」」
プロリンの他にも、ギルド兼役場の職員が驚いた様子を見せた。
プロリンは動揺しながらも、ハルトへ尋ねた。
「あ、あの・・・ファントムボアは魔物の中でも厄介なものでして、物理攻撃はほとんど効かないんですよ・・・?それを殴って、しかも1発だなんてことはさすがに・・・」
「そうは言われてもなぁ。実際ワンパンだったし。」
呆気にとられた様子の職員たちが見つめる中、ハルトは追い打ちをかけるように言った。
「それと、クマなら倒したぞ。こいつの前に。」
その場にいた1人を除く全員が、言葉を失っていた。
勿論、その1人はハルトであった。
しばらく間があって、プロリンが口を開いた。
「き、きっと、フォレストベアと間違えたのでしょう?1mくらいの、可愛らしいクマだったのでは・・・」
「うーん、俺よりもデカかったぞ。少なくとも3mはあったな。」
プロリンは訝し気にハルトを見た。が、目の前に横たわるファントムボアを見て、諦めたようにため息をついた。
「ま、まあ少なくともファントムボアを倒されたことは事実のようですし、本当なのかもしれませんね・・・。」
「そんで、こいつの換金額はいくらなんだ?今夜の寝床だけでも確保しないと」
ニートであったハルトは、家事の手伝いの一環で、食事の手伝いくらいはしていた。そのため、料理の腕には多少自信があった。お金と寝床さえあれば、他はなんとかなる。
「ええっと・・・ファントムボアの討伐となりますと、町長からの討伐依頼が自動的に達成扱いになりまして、10ゴールドになります。さらにほとんど損傷もないファントムボアですから、防具の素材としても高くつくかと・・・」
10ゴールド。日本の通貨で言うと、10万円くらいの価値がある。1円1ブロンズ、100ブロンズで1シルバー。100シルバーで1ゴールドと言った具合である。
すると、素材の買取窓口から、いかにも強面といった中年の男が出てきた。
その男がファントムボアの死体を観察する。
時折「ほぉ~・・・」と感嘆の声を上げていた。
「こいつは驚いた・・・。ファントムボアには物理系の攻撃が効かねえ。だから炎の魔法で黒焦げだったりする。しかしこいつは・・・。5ゴールドでどうだ。浄化しないと使い物にならんから、その分は安くなっちまうな」
「浄化ってことは、こいつ悪魔とかそんなんか?」
「ファントムボアはアンデットモンスターなので、皮が腐敗してるんです。それを神聖魔法で浄化すると、フォレストボアよりも丈夫な防具素材になるんですよ」
プロリンが答えてくれた。
交渉は無事に成立し、ハルトはギルドから15ゴールドを手に入れた。
プロリンに宿屋の場所を教えてもらい、ギルドを後にした。
金額は1泊50シルバーらしい。
宿屋の食事を済ませ、ベッドに横になった。
「30日はニートができる!!!」
ハルトは歓喜した。