プロローグⅡ
プロローグの続きになります。
気が付くと、春斗は小高い丘の上に寝転がっていた。爽やかな風が吹き抜け、季節は春から初夏なのだと思わせる。とても寝心地が良い。近くには町とそこへ向かう一本道が見えるが、その他は森と山、それに草原しかない。
「って、そうじゃない!!」
春斗は飛び起きた。なにしろ、異世界に島流しにされたのだ。状況を整理し、これからどうするかを考えなくてはならない。
「ええっと・・・とりあえず身体は女に・・・ん?」
声が低い。ついでにいうと、下半身には覚えのある感覚。なにかおかしい。
(ひとまず状況を整理しよう。確かに、セレスティアは俺を女にするとか何とか言っていた。さらに、知力も下げるとかなんとか・・・。でも、身体は男であると思われる。と、すると・・・)
結論は明らかであった。
「あいつ、能力を下げたうえでステータスを反転させたのか・・・。」
そう、冷静さを失ったセレスティアは、能力や性別を変えた上で、全てを反転させてしまったのであった。その結果、春斗は運動不足のニートであったが故に強力な力を、セレスティアが能力をいじったが故に知力、そしてやや高い顔面偏差値を手に入れてしまったのだ。
「俺、結構なイケメンになってたりして・・・ふふっ」
ニヤニヤが止まらない春斗。
「異世界で、可愛い白魔導士ちゃんやら女騎士と・・・イケメンならいける!!」
恥ずかしい独り言を言う春斗であったが、聞く人もいない。
・・・地上には。
「まずはそこの町に行って情報収集しないとな。この世界のこと、何も知らされてないからな。女の子が一人でいると危険ってことしか。」
若干フラグめいた発言をする春斗であったが、そのフラグも回収されることなく、町についた。セレスティアが場所を考慮するとは言っていたが、確かに道中は何も起こらなかった。
「ようこそペプトへ、か。この町はペプトというのか。って、文字が読めるんだな、俺。」
知力が高いのは便利である。
町には石やレンガ、木造の家々が並ぶ。中には露店のようなものがあったり、雑貨店のようなものも見える。あれは八百屋だろうか。
すると、目の前を老いた男性が通りかかる。春斗は、この男性に町のことを聞くことにした。
「すみませーん。旅のものなのですが、役場はどこにありますか?」
町の案内を頼むのであれば、役場が一番である。
「おお、旅人とは珍しいのう。この道の突き当りじゃよ。」
「ありがとうございます!」
「ふぉふぉ、元気で良いのう」
(言語も問題ないな。とりあえず、役場を目指そう)
役場についた春斗は、その門を開ける。岩を成形し組み立てた建物に、木製のドアが取り付けられている。ドアに垂れ下がった板には「ペプト役場・ギルド」とある。
「すみませーん。旅の者です。この町のことを尋ねたいので参りました。」
「はーい、しばらくお待ちください!」
奥のカウンターのような場所から、受付と思われる女性の声がした。
その女性が小走りに寄ってきて、春斗に軽く会釈する。春斗もそれを返す。
「初めまして、私は旅人のハルトと言います。あの、旅人といっても小さな集落から出てきたばかりでして、世間知らずと言いますか・・・なにもわからないんです。なので、いろいろと教えていただきたいです。」
いくつかウソがあるが、まさか異世界から島流しされてきましたなどと言えるわけもない。第一印象も大事だ、敬語を使う。名前はとっさに呼ばれて反応できるよう、そのまま使うこととした。
「そうでしたか。私は役場兼ギルドの受付をしています、プロリンといいます。」
「プロリンさん、よろしくお願いします。あの、ギルドと言いましたが、具体的に何をするところなんですか?」
いきなり質が落ち始める敬語。相手は気にした様子もないが。
「ギルドは、様々な人の依頼を仲介する機関です。貴族から一般の市民まで、誰でも依頼を発注できますよ。また、受注はギルドに登録した者のみが行えます。その依頼を達成した場合に、依頼人から予め預かった報酬を、受注したものに授与します。ざっとこんな感じですね。」
「なるほど。ご丁寧にどうも。」
「ハルトさん、でしたか、ギルドへの登録はまだですよね?」
「登録はしてないよ、早速させてもらおうかな!」
「では、ここに氏名と職種、特技などを記入してください。」
「クラスって?」
「クラスとは、剣士や魔法使いといった、個人の戦い方に応じた名称のようなものですね。特に名乗る条件があるわけではありませんが、魔法が使えないのに魔法使いを名乗るなどの行為は、ギルドの規則により厳重に処罰しますのでそのつもりで。特に何もなければ、市民と書いてくだされば結構です。」
「・・・勇気があれば『勇者』を名乗ってもいいってこと?」
「は、はい。しかし、相応の仕事をこなせなければ虚偽とみなしますよ。」
しばらく黙ったのち、ハルトはこのように書いた。
『ハルト・コガ。 クラス:市民』
ハルトはチキンであった。
こうして、市民ハルトの冒険が始まるのであった。
―――
一方天上では、真っ赤な顔から一転、真っ青な顔をした一人の美しい女神がいた。
「な、なんてことでしょう・・・私としたことが・・・
これでは、また惚れ・・・コホン、監視をしなくてはならなくなります・・・」
ストーカー気質な女神であった。
これにてプロローグは終わりです。