プロローグ
「ねぇ、ちょい寄り道してい?」
学校帰り、一緒に歩いていた来栖が、いきなり私の腕をつかんだ。
振り向けば、その視線の先が電気ショップの方へに向いている。口先ばかりは質問形式をとりながら、明らかに私の意見を聞いてはいない。
しょうがないと他の面々に手を振れば、握っていたスマホに『いてら』『被害者乙』とのLINEが届く。こうして来栖の気まぐれの被害者になるのはいつものことで、しょうがないから大人しく来栖に拉致されてやる。
「スマホカバーがほしいのよねぇ」
「はいはい」
私の意見なんて全く聞く気のない来栖は、さっそくスマホケースのコーナーに入り込み、座り込んでしまっている。
暇になったこともあり、手を振るだけで済ませてしまった友人たちへ『いつも離脱すまんね、ちょい来栖と買い物しとく。』とかLINEしておいた。
真剣に棚のスマホケースを眺めている来栖、ちょっと幼くも見える横顔は、黙っていればかわいらしく整っていて、それなりに見ていて楽しい。左に一本こしらえた三つ編みから、こぼれおちる後れ毛をかきあげて、説明文を一つ一つ改める様子を見るに、長くかかってしまいそうな気配だ。
イマドキの女子高生は大変で、できれば早めに中間テストの準備をしたいところだけれど、まぁ、少しぐらいつきあったっていいだろう。私もそろそろくたびれてきたスマホケースを交換しようかどうか……少し眺めてみるも、値段を見て断念した。今月は少々厳しいのだ。
不意に、通りかかった少年が、近くにあった電子ピアノをイタズラした。そうして流れてきたのは、誰でも知っているような童謡で、思わず鼻歌が出てしまいそうになる。