終章
魔族というのは、普段は人間よりもずっと弱いらしい。ただ、二百年周期で、ほんの一時期だけ無茶苦茶に強くなるときがあるのだという。魔族はその期間、人間に攻撃を仕掛けることによって、魔族の強さと恐怖を人間に植え付け、弱体化している期間中、人間から攻撃されないようにしていた。それこそが、“魔”の“災厄”の正体だったということだ。
しかし、今回は俺と同じような転生チートの男が前回の“災厄”からわずか百年で魔族において誕生。彼の強大な力に影響され、他の魔族も力が強化され、本来の二百年紀を待たずに、“魔”の“災厄”が始まったというわけだった。
その途中で、肝心の魔王は力を失ってしまうわけだが、その影響が魔族全体に及ぶことはなく、彼は俺と同様に、力を失ったことをごまかしごまかし、今日までやってきていたということだった。
そして――あの日、魔族と人間は、今後お互いから攻撃されないという講和を、結ぶことに成功した。
竜王が仲介者となり、人間と魔族のうち、もしどちらかが約束を違えた場合、違えられた方を守るために竜王と竜たちは味方するという約束が結ばれた。朝に発した言葉を夕に返す人の子と異なり、悠久の時を生きる竜族が仲介者となったことで、人間と魔族はともにこの約束を違えるには非常に大きなリスクを抱えたことになるわけだ。これまでお互いに危険視しあっていた者同士であり、実際に殺しあった者もいる。そうそうすぐには仲良くできないだろうが、お互いを攻撃しないことが保障されたわけであり、きっとこれから、交流は増えていくことだろう。
かくして俺は、“竜”の“災厄”に引き続き、“魔”の“災厄”をも終わらせた者として、未来永劫、歴史に名を刻まれることとなったのだった。
――そして、俺たちは家に戻る。
「ようやく、平穏な生活に戻れますねー」
エミナが入れてくれたお茶に、俺は口をつける。もう毒殺は怖くない、一応。だって俺の力がなくなったことに気づいてから、何度もそのチャンスはあったはずなのに、彼女たちは一度もそれを使わなかったのだから。
「ねえ、何か音がしない?」
「ええ、誰かいらっしゃったようですね?」
ゆっくりとお茶を味わっていたところ、ラーニャとシーシャが人の気配を感じる。扉を開けると、数名の人間が空から降りてくるところだった。
「――やあ、僕も隣に隠居用の家を建てさせてもらえませんか?」
魔王が現れた!!ちょっと待て何ナチュラルに人の家に現れてるんだ。
「いやぁ、だってせっかく同郷の人とお話しできるんですから、飛んできちゃいました。翼、うらやましいでしょう?翼は三年経ってもなくならなかったんですよ」
日本語でこっそりと俺だけに分かるように言う魔王。後ろには四魔族が控えていて、こちらはまだ弱体化の事実を知らないらしい。
案外、俺と同じように気づかれていたりしてな。
「だったら一人で来いよなんで四魔族まで連れてきてるんだ」
「はは、お忍びで来ようとしたら見つかってしまいまして……」
魔王に文句を言い続けようとした俺は、次の瞬間、気圧が変わったことに気づいた。そして空から重々しい声が聞こえる。
「なにやら随分と楽しそうではないか」
ちょっと待て竜王。なぜここにいる。
「力を失った汝のために、定期的に見回りに来てやることにしたぞ」
いやそれはありがたいのかもしれないけど、竜王を呼び出してよからぬことをたくらんでると思われる可能性があってですねえ竜王さん。
「カイル師匠!」「カイル師!!」『魔王戦で助太刀を命じてくださったということは、いよいよ我々も直に稽古をつけていただけるだけの力がついたと考えていいのでしょうか!?』
今度はシャルロッテとマローが現れた!!やめてくれ!!稽古なんかつけれるわけないだろう!!
更にその後ろから、今度はエルク陛下が飛び込んでくる。
「大変だ!!カイル殿!!宇宙人が攻めてくる!!」
いやちょっと待ってください皇帝陛下、なんですかその宇宙人ってのはあああああああああああああああああ!!
――そんなこんなで、結局心が休まるのか休まらないのかわからないまま、転生チートして調子に乗ってたらジャスト三年目の日にすべての力を失ったので復讐されるのが怖くなった俺は、今日も隠居生活を続けるのだった。
ひとまず、これにて完結とさせていただきます!ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!!皆様の暖かい応援に、深く感謝しております。感想、レビュー、ブクマ、評価など、たくさんいただきありがとうございました!喜びのあまり、踊り回っています!
また、新作『パーティを追放されたので一人寂しくペットのスライムに話しかけていたら、魔物と意思疎通するスキルを獲得しました』を始めました。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
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活動報告でも、詳しくご挨拶いたします。