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45.再会(上)

 え――


 ちょっと待て。

 

 それは駄目だ。

 

 それはないだろう。

 

 俺一人が最後に報いを受けるならまだいい。それはある意味で自業自得というべきことだ。

 もちろん恐怖がないわけではないし、できる限り避けたいことであるのは言うまでもないことだが、それでも最悪の場合はここで死んでしまうのだということは分かっていた。

 だけど――これは違うだろう。

 なんで、なんで彼女たちまで。

 山奥の隠居地で大勢の兵士に守られているはずの彼女たちが、こんな最前線の死地に連れて来られなきゃならないんだ。

「いったい……これは……」


 俺の疑問に、傍らにいた兵士が返答する。

「はっ、カイル様のことですから、御自身の近くに大切な方を置いておいたほうが御安心なさるかと思いまして、たった今、ここにお連れいたしましたところでございます!どうぞ、何もお気になさらず、存分に魔族どもを殲滅なさってください」


 本心からそう信じ切っているような兵士の、その言葉を聞いて――俺の中で、何かがはじけた。考えるより先に――これまで抑え込んでいた言葉が、口から飛び出す。










「いい加減にしてくれよ!俺だって人間なんだよ!戦うのは怖いんだよ!おめーらと違って仕事でもなんでもないし誇りもないんだよ!それをみんなでよってたかって好き勝手しやがって!挙句の果ては彼女達を危険な戦場に連れて来て俺の心情を慮った!?お前らは女三人すら自分達の力で守ることもできないのか!それでよく帝国の兵士を名乗れたもんだよな!自分の命すら満足に懸けられないのなら、今すぐそんな仕事やめちまえ!都合のいい時だけ人を頼ってんじゃねーよ!命を懸けて戦うのを他人任せにしてる奴がのうのうと生きるんじゃねえ!」


 一息で、言うというよりも叫び切って――俺は、やってしまったことに気づいた。

 自分の臆病をさらけだし、兵士の士気を下げるようなことを大音量で叫んでしまったことに。

 こんな土壇場でそんなことをすれば、さしもの皆ももう許してはくれないだろう。

 どのみちもう、覚悟を決めていたことだが、ついに年貢の納め時か――


「お、俺達は、今までなんてことを……」

「カイル様の強さに甘え、騎士としての誇りを捨ててしまっていたのか……」

「ただの一般人に代わりに戦えなどと、どうしてこれほどまでに恥知らずなことを、言えるような人間になり下がっていたのだ……」


 ――え?


 周囲を見ると、騎士や魔法使いが一様に青い顔をしている。中には、涙を浮かべている者もいた。そして、


「申し訳ありませんでしたカイル様!この戦、我々の手で勝利を手に入れてみせましょうぞ!せやああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

「俺もだああああああああああっ!俺も続くぞおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!」


 一人、また一人と鬨の声を上げて、戦場へと飛び出して行く。その士気は、やがて天幕の外にいた兵士たちにも伝染したらしく、彼らの気合が巨大な渦のようになって、地を揺るがすような叫びとなって聞こえてきた。

 

 それをしばらく黙って聞いていたエルク陛下が、俺に体を向ける。

「カイル殿!!」

 その声に、俺はビクッと跳ねあがる。だが、対するエルク陛下の顔は、泣きそうになっていた。


「どのようなお詫びの言葉も、貴方には不十分かもしれないが……それでも、皇帝として、恥を忍んでお願いいたします。もし、助けていただけるのであれば――助けてください」

 それだけ言って、深々と頭を下げる。そして、俺の方へすがるわけでもなく、ただ毅然と、マローやシャルロッテを従えて、陛下もまた、外へ出た。

 

 いつの間にか、天幕の中に残っているのは、俺とシーシャ、ラーニャ、エミナの四人だけになっていた。


「あの方達は、どうやら御自身の本分を思い出したみたいですね」


 あっけに取られて飛び出していく人々を見ていた俺に、エミナが、ぽつりと言った。


「――けどまあ、折角ここに連れてきてもらえた(・・・・・・・・・)わけですし、雑用くらいはお手伝いしましょうか」


 そう言って、まるで散歩にでも出かけるような気軽さで、彼女も天幕をくぐり外に出る。


「ちょっと、ちゃんと前に渡した防具つけときなさいよ、特注品なんだからねっ」


 ラーニャまでもが、そんなことを言いながら彼女に続いた。

 訳が分からないまま、それを見送る俺に対して、一人残ったシーシャが微笑みかける。


「――意外ですか?でも、自分達が生まれ育った世界を守りたい、大切な人を守りたいって思いがあれば、私達のような微力でも、協力したくなるのかもしれませんね」

「で、でも……」


 何と言えばいいのかわからない俺に、シーシャは微笑みながら一歩近づいた。


「エミナも言っていましたけれど、私達はここに連れて来られたことは後悔していないんですよ?だって――カイル様の無事を(・・・・・・・・)確かめることができる(・・・・・・・・・・)じゃないですか(・・・・・・・)


「な、何を言ってるんだよ、シーシャだって知ってるだろ?俺がどれだけ強いのかを」


 その言葉に対し、彼女は――


その力がなく(・・・・・・)なっているのに(・・・・・・・)――ですか(・・・)?」


 まるで何でもないことであるかのように、そう言った。


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