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39、ヤンデレ令嬢と再会しました

 エッシューホワール公爵令嬢、エリューナ・エッシューホワール。

 別名、カイルハーレムヤンデレ枠。


「カイル様カイル様ああカイル様お会いしたかったですわカイル様。急に一人で隠居されると聞いて私は泣く泣く身を引きましたのに噂によるとカイル様のお心を尊重しない雌狐が三匹ほどカイル様について行ったというではありませんかああなんということでしょうカイル様のお心を本当にわかっているなら私のようにきっぱり身を引くべきであったというのにねえカイル様カイル様もそうお考えですよねきっとあの女たちに付いて来られて迷惑なさっているんですよねえカイル様だからこそこうやって私の元へ一人で戻ってきてくださったのですよねカイル様ええわかっておりますよどうか何もおっしゃらないで常に私の心はカイル様のお傍にあるのですわカイル様ああ私のたった一人の愛しい人」

 うっとりと恍惚の表情を浮かべながら、俺の腕に自らの腕を絡めてくる美少女は、国内でも有数の貴族の令嬢だ。俺が力を持っていた頃は、シーシャ、ラーニャ、エミナのほかにも多くの美女たちと暮らしていたのだが、その中の一人である。そんな彼女と久しぶりの再会を果たし、俺に真っ先に浮かんだ感情は――


 怖い怖い怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!

 能力を持っていたころは、「こんなに俺のことを慕ってくれているなんて可愛いなぁ」とか呑気なことを言っていたの、マジでバカとしか思えん!


「ちょ、俺、やっぱり王宮の方が……」

「それでは、あとはお任せいたします!エリューナ様!」

「ええ、ここまでご苦労だったわね」

 悲しいかな俺の声は届かず、一刻も早く逃げたそうな顔をしていた兵士が去り、彼を見送ったエリューナは振り返ると、にっこりと笑ってこう言った。

「これで邪魔者はいなくなりましたわね、カイル様。二人っきりの夜を楽しみましょう」

 俺は、がっくりと膝を地面についた。


 二人家に入り、上機嫌のエリューナは歌を歌いながら料理を始めている。

「すべてのめしべはカイルのために~♪」

 それはもう国歌でなくなったの。お願い。歌わないで。

 そんな俺の思いもむなしく、彼女は楽しそうに料理を続ける。信じられないことだが、俺と再会して本当に嬉しいらしい。ハーレムを築いて好き放題する男なんて、力があるからみんな嫌々従っているだけかと思っていたのだが……あの三人にせよ、エリューナにせよ、そういうところは見えない。隠してるだけかもしれんという恐怖がないではないが。

 だいたい、考えてみれば俺の隠居は本当に突然だったわけで。

 他の女性たちも、もしかしたら俺の行方を気にしているかもしれない。――恨まれている可能性も濃厚にあるので、こちらから会いに行く気は起らないが……

 少なくとも、エリューナは俺と再会できて楽しそうに見える。今も楽しそうに包丁を持ちながら、料理をしている彼女を見れば、他の女性たちにも、せめて手紙くらいは出すべきか――


「…………」

 と、そんなことを考えていたら、いつの間にかエリューナは歌うのをやめ、代わりに独り言らしき声が聞こえた。

 何やらぶつぶつと呟いている。俺は気づかれないようにこっそりと近づいて、聞き耳を立てると――

「ええそうですわ、いっそのこと切り落として(・・・・・・)しまえば変な虫もよりつなくなるのではないかしら。そうすれば私とカイル様の二人っきりで愛を育めるに違いないわええそうしましょうそうしましょうウフフフフフフフフフフフフフフフ……」

 何を何を何を何を何をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!何を切り落とすつもりなのですかああああああああああああああああ!!!!今もう無限回復とかできないんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!

 俺はガクガクと震えが止まらなくなった。寝ている間に何をされるかと思うと、今夜はまず間違いなく一睡もできそうにない。






 そのころ、エリューナの独り言は、

「本当にこのムシズキダイコンという根菜は葉の部分から中に虫が入ってくるのがうっとうしいのですわ最初から育てるときに葉を切り落として根の部分だけ育てることができればいいものをああ面倒ですことああカイル様待っていてくださいね早く虫食いを処分して美味しい料理をお持ちしますからそうしたら仲睦まじく夕食を楽しみましょう――」

 などと続いていたのだが、調理場の隅に逃げていた俺は気が付かなかった。


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