36.国歌(上)
『♪
あったとさ~あったとさ~
おしべがいっぽん あったとさ~
カイルのおしべが あったとさ~
そこにめしべが あつまって
おっしべとめっしべが ごっつんこ
カイルのおしべに ごっつんこ~
こどもがたくさん ぴゅっぴゅっぴゅ
カイルのいちぞく だいはんえい
いだいなカイル すえながく――』
問.世界の首脳が一致団結して一言一句たりとも間違えないよう神経を針のように尖らせながらこのような歌を歌っているのを聞いた私カイル=サーベルトの気持ちを表す二字熟語を一つ述べよ。
答.絶望(別解として、羞恥、後悔、悶絶 等)。
どうしてこんな歌がワイゼンハマーン帝国の国歌となってしまったのか。
――回想開始。
『おいエルク!俺様が新しい国歌を考えてやったぞ!感謝しやがれ!』
酒に酔った勢いで今日も今日とてエルクのところへ殴りこむカイルは、開口一番そのようなことを言った。
『ヒッ……これはカイル殿……』
突然の襲来に、顔を蒼くして対応するエルク。一国の皇帝とはとても思えないほどの、弱弱しい雰囲気である。そんなエルクに構わず、カイルは一枚の紙を無造作に懐から取り出した。
『――ヒック、見ろ、これを!新しい国歌だ!』
掲げる紙を恐る恐る見てみると、案の定、嫌がらせとしか思えないような歌詞が広がっていた。
『こ、これを――我が国の新しい国歌にしろと?』
『そーだぜ、ワイゼンハマーンはこれまで数々の国、民族を併合してできた国。内心では新たな支配者に不満を持ってる奴もいるだろう?そこで俺様が一肌脱いで、全国民に平等で公正な素晴らしい新国歌を考えてやったって寸法だぜえ!ヒーヒッヒヒック!』
どうだ、と胸を張るカイルであったが、酒臭い息はごまかせない。絶対そこまで考えているはずがない、ただの後出しのこじつけであろう主張を聞きながら(だいたい、どう見ても"全国民に平等で公正な素晴らしい新国歌”ではない)、エルクは必死に抗弁を試みる。
『そ、そのような問題はかねてから指摘されていたから、現在の我が国では様々な立場の者に配慮して国歌に異なる六つの歌詞があり国民はどれを歌っても構わないということになっているのだが――』
『うるせえ!ごちゃごちゃぬかすんじゃねえ!とにかく俺様が人類普遍の真理を歌にしてやったんだ!お前は黙ってそれを新しい国歌にしていればいいんだよ!』
『ヒィッ!わかった、わかったから!すぐに国歌採用するし触れを出すから、ここでまた暴れ回るのはやめてくれえええええええええええええええええええええええええええええっ!』
と、いうわけで、新・ワイゼンハマーン帝国国歌、“すべてのめしべはカイルのために”が採用されたのだった。
回想終了。結論、おればか。
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。