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35.開会

「――ベリエカーデカ勲特等、カイル・サーベルト殿の、お成ーりー!」

 長々とした肩書がようやくすべて読み上げられ、俺はゆっくりと最上級の間へ足を踏み出した。扉の向こうに勢ぞろいしていたのは、各国のお歴々であり、顔を見るだけで正直心臓には悪い。たいていの人は起立して笑顔で拍手をしているが、中には露骨に不機嫌そうな顔をしている代表もいて、俺は自分の権威が絶対的なものではないということを知らしめられる。待たせたことに怒っているのか、俺が決めた勲章の順番がよくなかったのか、あるいはその両方なのか――背中を伝う冷や汗を、どうにかばれないようにしながら、俺は用意された席――もちろん、最も上座だ。オブザーバーなのに……――に腰を下ろした。あとは皆も席に着くだろう、と思ったら。


 彼らは、一斉に、床に這いつくばって土下座した。


『世界の英雄、カイル=サーベルト様。本日は我々のような豚共の豚小屋へようこそおこしいただき、ありがとうございます。豚は豚なりにご無礼なきよう誠心誠意努力いたしますので、どうか獣の粗雑さはその寛大なるお心をもってお許しいただきますようなにとぞお願い申し上げます!!!』


 ああ……そういや国際会議の席ではそんな挨拶しろって昔命令した気がするなぁ……

 俺は早速遠い記憶とかつての自分に寿命を削られた。

 言うだけ言ってその後実際に国際会議になったのは今回が初めてだからすっかり忘れていた。

 だいたいが何の迷いもなく言ってるのも怖いし、数名が嫌そうな顔をしているのも怖い。


「あー、えっと、その、今回の俺はオブザーバー参加なわけですし、どうかそうかしこまらず……楽にしていただきたいというか……できれば俺のことなんか無視して……」

『はっ、寛大なるお心に感謝いたします!!!』

 最後の方は消え入りそうな声で言ってしまったので通じなかっただろうが、とにかく俺の気持ちは伝わったらしく、各国代表は怖々といった体で顔を上げ、自席に戻った。


「世界各国、様々な国よりお集まりし皆様、あの“災厄”から未だ完全なる復活を遂げられないなか、我らが今、新たな危機に直面したことを冷静に受け止め、それぞれにお事情のあるなか、こうして一同に会していただけたことを大変ありがたく思う!我らに残された時間は決して多くない。儀礼的なものは極力避け、実りある議論をしていこうではないか!」

 俺の隣の席――議長席だ――に座るエルク皇帝陛下が、高らかに会議の開始を宣言する。この辺りはさすがに名君と謳われるだけのことはある、と言えるだろう。“会議は踊る、されど進まず”だったか、世界史で昔習ったことを思い出すが、とかく王族級になってくると儀礼やメンツを重んじ大事な本題をおろそかにしてしまうこともある。そのようなことを戒める陛下の態度は、実に立派と言えるだろう――と、そこで。

 なぜか、皇帝陛下が俺の方をちらりと見た。


「――が、その前に、ワイゼンハマーン帝国国歌を、皆で歌おうではないか」


 急な言葉に、俺は一瞬意味が分からない。ワイゼンハマーン帝国で会議を開くのだから、この国の国歌をはじめに歌うということはまあ考え方によってはあるのだろうか。儀礼的なところを極力飛ばして、と言っていたが、それでも譲れない一線、ということなのかもしれない。しかし、他の国歌代表にも歌うことを呼びかけるというのは、大丈夫なのか?とりあえずこの場にいる帝国関係者が歌う、ということにしておいて、相手の方で敬意を持って一緒に歌ってくれるのを待った方がいいのではないだろうか――国際会議の作法なんてろくに知らない身としては、そんなことが気になってしまったのだが、周囲の反応を聞いて、俺はそういう問題ではなかったのだということに気がついた。


「おお――あの歌ですな」

「ワイゼンハマーン帝国国歌といえば、かの有名な――」

「作詞も作曲も、カイル・サーベルト殿がされたという……」

「それはそれは、謹んで我々も歌わせていただかねば」


 どこか、俺に対して警戒するような、機嫌を取るような目で、そんなことを言っている各国代表。それを聞いて、俺は自分が何をしたか思い出し、顔が真っ青になった。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、エルク陛下が皆に呼びかける。


「まさか歌詞をご存じない方もいらっしゃるまい。それでは、恐れ多くもカイル・サーベルト殿に作詞・作曲いただいた我らが国歌、“すべてのめしべはカイルのために”。ご斉唱いただこう」


 そして、軍の楽団が国歌を奏でだす。

 大変ご無沙汰しており申し訳ございません。感想、コメントなどありがとうございます。


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