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34.勲章

 数学者の報告を聞いて、珍しいことにエルクは思わず怒り狂った。


「なっ、お、お前らっ、俺がっ、どんだけ貴様らの会議にっ、予算をっ、いやそんなことよりっ、カイルがっ、国際問題がっ」

「落ち着いてください陛下」

「これが落ち着いていられるかっ!貴様らが諦めてしまったら、それがそのまま国際戦争にまで発展しうるんだぞっ!そんなことがわからんやつらでもあるまいに、何を考えてるんだっ!カイルの案件に怖気づいたかっ!」

「だから落ち着いてくださいませ陛下。諦めたのではございません。“正しい順番(・・・・・)が存在しないと(・・・・・・・)証明できてしまった(・・・・・・・・・)のでございます。簡単に申しますと……推移律が成り立たず、順序構造が定義できないというわけになります。すなわち、例を出しますと、先例では聖エレナビーン勲章とジハトルエ勲一等を両方受章している場合は、聖エレナビーンを先に言っておりました。そして、ジハトルエとヤナヤナ大褒章はジハトルエが先、しかしながら……聖エレナビーンと、ヤナヤナだとヤナヤナの方を先に読み上げるのが慣例なのであります。これで今まで何の問題も起きなかったのは、この三つを同時受章するなどということが考えられなかったからでございますな。そもそも与えた三国はそれぞれ敵同士であり、二つの受章であってもめったにあるものではございませんでしたから……このようなややこしい例が少々あっても陛下のお力でなんとかできるかもしれませぬが、カイル様がお持ちの褒章を調べたところ、同様の例が他に12例見つかった時点で、我々は陛下に報告することを決意いたしました」


 その言葉を聞いて、エルクはがっくりと膝を床についてしまった。


「なんということだ……しかしそれではこの会議上で新たな国際問題の火種を生んでしまう……」


 エルクは頭を抱えた。しかし聡明なる数学者の台詞はここでは終わらなかった。


「陛下、お諦めになるのは早すぎますぞ、要は、これまでの慣例よりも強い順序関係を入れなおせばよいだけのことでございます」

「そんなものが簡単にできたら苦労はっ……そうか!」


 反論しかけたエルクは、そこで何かに思い当ったかのように顔を輝かせた。


「その通りでございます。カイル殿に(・・・・・)呼んでもらいたい称号の順番をご自分で決めていただけば何の問題も起きようもありません。いったい誰がカイル殿の決めた順番に文句をつけられましょうか」

「素晴らしい!なんという良い案を思いつくのだ!やはりそなたたちに任せておいて正解だったぞ!でかした!」


 エルクは思わず彼をひしと抱き感謝の意を伝え――




 ――そして、門番の声が聞こえた。


「カイル様のご到着っ!」


 エルクはただちに立ち上がり、その声の方へ駆けて行った。




「ひぃっ!なんだよこの勲章の量は……いつの間に俺はこんなに勲章を……到着したかと思ったら陛下にこんな部屋に連れて来られて、順番決めろなんて……好きに決めていいっていうけど、絶対下手したら国際問題になる話じゃん……資料もあるから先例を調べられるけど、でもどう考えてもこの三つとか順番決められないやつだよねえ!?これどうすりゃいいのさ……あまり時間かけたら待ってる各国要人にさらに恨まれるし……もうやだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!誰か助けてくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 先ほどまで委員会が開かれていた部屋にひとり押し込められたカイルの叫びは、幸か不幸か誰にも聞こえなかったという。

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