28.エミナとお買い物(3/4)
大事なのは日ごろの行いである。
俺が言っても説得力がまるでないですねすみません。
しかしとにもかくにも、俺の目の前に現れたのは帝国二番手魔導師(実は帝国筆頭魔導師返り咲き)――エミナを連れて行こうとしていた若者たちから見れば雲の上の、そのまた上にいる人である。俺の顔を知らなかった不勉強な彼らも、さすがにマローの顔は知っていたようで、一同に呆けたような顔をした。
「マ、マロー師……」
ようやく誰かが声を出すと、そこで初めてマローは彼らの存在に気づいたようだった。
「む?なんじゃお前たちは。学院の生徒か?挨拶なら、わしより先にカイル師にしなさい、わしは名誉校長じゃが、カイル師は最高最強終身名誉校長じゃ」
そんなマローの言葉に、ようやく彼らは自分がちょっかいをかけていた相手が誰だか気付いたようだった。っていうか、いつの間にそんな肩書を俺は手に入れたんだっけ……?
「……え?英雄――様?」
「破壊と恐怖と殺戮の英雄カイル様!?」
「なんでこんなところに!!」
「けどそう言えばメイドを連れてるって……」
「「「「――ヒィッ!ごめんなさあああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
最後は恐怖で言葉にならない声を上げると、四人はエミナを放して一目散に駆けだした。
「はあ……なんじゃあいつらは」
マローはやれやれと溜息を吐く。その横ではエミナがおかんむりだった。
「ちょっと!ご主人様酷いです!私が連れて行かれそうになったのに助けてくれないなんて!!」
「こらこら、無理を言うでない娘っ子よ。カイル師が手を出せば、あいつらなんぞ骨も残らん。カイル師はわしが来ることに気づいておったからこそ、何もしなんだのじゃ」
どうやって言い訳をしようかと思っていたらマローが勝手に言い訳を入れてくれた。マジ有能だ、さすが俺の弟子!
「ふぇっ!本気を出したご主人様ってそんなに――」
「それはもう、悪鬼羅刹、魑魅魍魎が可愛く見えるほどじゃぞ。その力を使わずに、わしの訪れを待って平和的解決にしたのじゃから流石は慈悲深いカイル師じゃ」
「で、でも未来予知なんて本当にできるんですか……?」
「確かに未来予知は12の禁術の一つ、カイル師ですらおいそれとは使えんかもしれぬ――じゃが、きっとカイル師のことじゃ、他ならぬお主との買い物であるからこそ、今日は用心に用心を重ね事前にこの魔法を使っておったのじゃろう」
「ご主人様……あたしのためにそこまで……」
すごい、俺が何も言わないのにマローとエミナで勝手に話を作ってくれた。しかも俺の評価が下がるどころかむしろ上がるような話を。俺はそれに恥も外聞もなく乗っかる。
「ハハッ、マローにかかってはすべてバレバレだね。ところでマローはどうしてここに?」
「あ、それはですな……あれからまたシャルロッテに剣の教えを受けたことにより魔法の力量も向上しましたので今度こそお手合わせを」
「マローは自分の修行だけじゃなくて仮にも帝国魔法使いのトップなんだからもっと末端の管理体制をちゃんとしたほうがいいんじゃないのかなぁっ!」
危ない危ない。藪をつついて蛇を出すところだった。俺は間髪入れず問題のすり替えを行う。マローの顔が蒼くなった。
「そ、それはその……ひょっとしてカイル師、先程の者たちの狼藉にお怒りで……」
「俺が怒ってないと思う?」
にっこりと笑いながらそう尋ねると、マローはがくがくと震え出した。
「さ、先程の生徒達は直ちに個人特定を行い、厳重注意の後退学処分にいたしますので……」
「でもそれって後出しじゃんけんみたいなものだよな?問題の根本的解決になってる?」
「さ、再発防止委員会を立ち上げ、わしが委員長になって再発防止策を検討します!」
「おっけー。じゃあそれが終わるまで俺のところに来ている場合じゃないよな。俺のところに来るのは全てがちゃんと終わってからだ。もし次に俺の所に修行のために来た後に、また同じようなことが起これば……聡明なマローは、どうなるか分かるよな?」
「わ、分かっております!分かっておりますからどうか、どうか魔法使いの大虐殺と魔導学院の焼き打ちだけはご勘弁ください!」
「これからの君の働き次第、と言っておこう。期待してるぜ、マロー」
よっしゃ時間稼ぎのネタができたあああああああああああっ!!
かくして、結果的にマローから逃げるネタを俺はあの男達から貰うことになってしまった。こうなると彼らにはむしろ感謝したいくらいである。退学になったら就職先の斡旋とかしてあげてもいいくらいだ。ペンシさんとか拾ってくれねーかな。