27.エミナとお買い物(2/4)
「それで!?それでそれで!?英雄様はその後どうしたの!?」
「そ、それでだな……俺は『トカゲはトカゲらしく、地面を這いずり回ってろ!!』と」
「うわーっ!さすがカイル様だ!カイル様にかかれば“災厄”を封じるのだって赤子の手を捻るようなものなんだね!!!」
「ハハッ……まあね……」
なお、今はその力はないのである。
しばらく子供たちにせがまれて、結局全盛期の俺の話をすることになってしまった。めっちゃ恥ずかしい。ヤンキーだった頃の自分の“武勇伝”を四十歳くらいになってせがまれたらこんな気持ちになるのだろうか。それもこれもエミナのせいなのだが、彼女は俺の話をまるで自分のことであるかのように鼻高々にして、ときおり「ご主人様はすごいでしょー」とか言いながら聞いていた。
「ああーっ!もうこんな時間!俺達、行かないと!!英雄様、ありがとうございました!またお話聞かせてください!」
「ハハッ、コンナ話デイイナライツデモ聞カセテアゲルヨ」
随分時間が経って、ようやく子供たちから俺は解放される。精神が無駄に削られてしまった。まだまだ買い物も終わっていないのに、もう家までの荷物運びを三往復くらいしたような気分である。ま、気を取り直していくとしますか――
「ちょっと、困りますっ!」
「おおっと失礼、美しい方を見るとつい」
「君、どこの家のメイドなんだい?こんな田舎じゃ、大して待遇もよくないだろう?よかったら俺達の誰かのところで働かないか?」
振り向いてエミナを呼ぼうとしたら、今度はエミナが数人の若い男に絡まれていた。まったく……次から次へと。思わず頭を抱えそうになるが、俺は平静を装う。そうしながらまずは男達の観察だ。
年齢から言えばまだ学生、先程の発言を踏まえると帝都かそれに類する大都市のお坊ちゃま、筋肉がついている雰囲気はない――となれば、帝都の魔導学院の学生というあたりが妥当な線か。友達同士で小旅行の最中にこの街を通りかかったところ、とか。
「――ん?なんだね、君は彼女の連れかい?悪いが、しばらく彼女を貸してもらうよ?」
そこではいそうですかと言うような男はカイル=サーベルトじゃないんだよなあ、これが。何事もなく終わったとしても後で確実にエミナには不審がられる。かと言って、男達の方も口元はニヤニヤと笑っているが、場合によっては俺を魔法で攻撃することも辞さないような目をしていた。下手に刺激すると攻撃を受けて、それはそれで俺が力を失ったことがばれてしまうだろう。
――あれ?詰んでね?
俺を動揺が襲う。相手に悟られないようになんとか表情は元のままを保ったが、その下の心臓はドクドクと激しく脈打った。
「おい、黙ってないでなんとか言えよ、ボクを誰だと思ってるんだ?」
こっちが言いたい。せめて帝国VIPの顔くらいは知っていてくれ。この村の人ならともかくちゃんとした家の子なら。
とはいえ名乗ったところで信じてもらえるか分からないし、信じてもらえなかった場合は酷いことになる。ここは最後の手段――
「ははっ、やだなあ何もあるわけないじゃないですか、どうぞごゆっくり!!」
俺はエミナを売ることにした!俺の本質は能力に胡坐をかいてるだけのクズ男!文句あるかぁっ!!
「ふぇっ!ちょ、ご主人様!?」
てっきり俺が男達をぶちのめすと思っていたエミナはこの展開に驚いて叫んでいるが許せエミナ。こいつらをごまかすより後で君を誤魔化す方が簡単そうなのだよ。エミナのせいで子供達と遊ばされて不機嫌だったとかそんな理由でっち上げて。
「ほらほら、あの男もそう言ってることだし、一緒に行こうか」
「ちょ、やめてください!ご主人様ぁ……」
う、涙目で見られると心に響くものがある。だが俺の保身のためにはエミナを犠牲にするよりほかはないのだ!すまんエミナ!いいとこのボンボンだし多分そこまで酷いことはしないと思う!多分!
と、俺が心の中でエミナの無事をお祈りしているところに――更なる乱入者が現れた。
「おや、カイル師ではありませんか。こんなところにいらっしゃるとは」
年配の男性の声に思わず振り返るとそこには――よく見知った帝国二番手魔導師、マローがいた。
あ、勝ちましたわこれ。