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26.エミナとお買い物(1/4)

「ごっしゅじんさーまとおっかいもの~」

「エミナ、エミナ、恥ずかしいから少し抑えて」

「あ、すみません……ご主人様を独占できるのが嬉しくて、つい……」


 軽やかにメイド服を着こなすエミナと俺は、麓の村まで買い物に来ていた。大抵のことは自給自足でなんとかしたいと思っているが、それでもたまには物資が要り用になることもある。ペンシさんが持って来てくれるものはどちらかと言うと珍味珍品の類だし、毎日やって来るわけでもないのだから、そういう場合には麓の村で市が立つときを狙って、家族の誰かが買い物に出ることもあった。

 そして今回は俺とエミナが担当しているというわけだ。

 幸いにも、帝都から離れたここでは俺の顔を皆知らないので、普通に買い物していてもばれない――


「あ、メイドさんだ!」

「ひょっとして、山奥のおうちのメイドさんかな?」

「じゃあ、あの冴えない男の人が“とっても素敵な、私達の理想の殿方”?」

「いくらなんでも、違うんじゃない?釣りあってないよ」

「こら!失礼でしょ!」

「人は、見かけ、に、よらない」


 なんか気付いたら子供に取り囲まれていた。なんだなんだ。



「えっと――あなた達は――ひょっとして、ラーニャ様とシーシャ様が言ってた子?」

「はい!そうです、その節は大変お世話になりました!」

「ラーニャお姉さん今日は来てないのー?また鬼ごっこしたかったのに?」

「俺はシーシャさんにお礼を言いたかったな……命を助けてもらったのは俺なのに、なんで俺だけ会えてないんだよ、すげー美人だったんだろ!?悔しいーっ」

「僕達だってまさかあの“聖女様”だったなんて知らなかったんだから……それならもっとお話をねだってたのに……」


 なんかエミナも彼らのことを知っているみたいだし……俺だけこの疎外感はなんなのか――もしや!子供の頃から周囲の人間との信頼関係を築かせておいて、将来的に俺を暗殺しようとする某国の計画!!……さすがにないか。最近、ちょっとだけ現実が見れるようにはなってきた。毎日が不安と隣り合わせなのは変わりないけれど。


「あら?ご主人様は彼らのことを知らなかったんですか?前に家の近くまで探検に来ていて事故にあったけど、シーシャ様に回復してもらって事なきをえたっていう――ほら、ラーニャ様が落し物を届けに行ってくれた……」


 ああ、そんなことも聞いたっけ。ラーニャ誘拐事件の衝撃ですっかり忘れてしまっていたがようやく俺も子供達のことが分かった――


(((((じーっ)))))


 な、なんだ!?なぜか子供達が俺を凝視してくる。やっぱりこの子たち暗殺者見習い――


「あのっ、おじ……お兄さんも、やっぱりあの山の家に住んでるんですか……?」

「へっ!?いや、まあ、そうだけど……」


 突然のそんな質問に虚を突かれ、思わず素で答えてしまったが、子供達はそれを聞いてなにやらひそひそと話し込んでいる。


「やっぱりあの人が……」

「でもなんであんな冴えない男と……」

「中身がすごいのかも……」

「ちょ、変なこと言わないでよ!」

「そういう意味じゃねえっ、お前こそ何考えてんだっ!」

「もう、いっそ聞いてみようよ!」


 気弱そうな少年が、意を決したようにこちらに向かって、もう一度単刀直入に問いかける。


「お、お兄さんは何者、なんですか!?」


 ありゃりゃ、そうきたか。ここでかの“英雄”だと名乗っては騒ぎが大きくなるかもしれない。俺を狙うような奴がもしいても大変だ。俺はあの家の使用人の振りでもすることにして――


「ふっふー子供達、聞いて驚きなさい!私のご主人様であるこの人こそ――」


 ちょ!エミナさん何胸を反らして得意げになってるんですか!やめて――


「かの“英雄”、カイル=サーベルト様その人なのです!!!!!!!」


 俺の願い空しく、エミナは高々とその名を宣言し、そして子供達は一瞬の沈黙の後、


「「「「「え、ええーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 これまたいいリアクションで、驚いてくれたのだった。


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