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21.子供達の探検(下)

「罠!?何、何でこんなところに……」

「今はそんなことじゃねえ、ザックの足を外すぞ!」

「俺、やる」


 死狼用の罠に脚を取られて大怪我を負った友人を前にして、焦りをはらんだ声で話しつつも、彼らは今ここですべきことを理解していた。

 幸いなことに、罠の仕組み自体はそこまで複雑なものではなく、四人が頑張ってこじ開けると、ザックの足は罠から外れる。しかし、それだけでは話は終わらない。ザックの傷からは、ドクドクと血が流れ出していた。


「クソッ、血が止まらねえ」

「ザック、大丈夫?気を確かに持って!」

「痛いよ……痛いよ……」

「血、血、血を止めないと!」

「とにかく、強く、結ぶ」

「トムス、頼む。あとは俺が背負う」

「無理だよ!お医者さんの所に着く前にザック死んじゃう!」

「馬鹿っ!縁起でもないこと言うな!」

「わあああああああん!!おかーさーん!!」


 おろおろしているうちに、彼らの脚元にはザックの血が広がり、赤い水たまりができる。やんちゃで怪我をすることもよくある彼らだったが、ここまでの出血は初めてだった。ザックの視線も徐々に朦朧としだし、彼らの焦りに一層拍車をかける。そして半ばパニックになりかけたそのとき――彼女(・・)は現れた。

 白銀のような髪、少女のような身体でありながら成熟した知性を感じさせる瞳、そしてなによりその美貌。

 追い詰められていた彼らをして、思わず見とれてしまうような女性が、気付けば彼らの後ろにいた。


「あらあら……何やら悲鳴が聞こえたので急いで来てみれば……これはいったいどういうことですか?」


 その言葉に、我に返った彼らは助けを求める。


「お姉さん助けて!ザックが死んじゃう!」

「ザックが、脚が罠で、それで血がたくさんでっ」


 子供達の言葉に状況を理解した女性はザックの横にしゃがみこんだ。


「まあ……酷い傷……死狼用の罠にひっかかってしまったんですね……ザック君、痛かったですねー、でも、もう大丈夫ですよー」


 そう言いながらザックの頭をなでると、彼の苦しそうな顔が少し和らいだ。そして女性の周りから、薄く白い光が立ち上る。彼女が手をザックの傷に持ってくると、その光も一緒になってザックの傷に移動した。


「魔法はあまり使いたくなかったですけど……緊急事態ですし許していただくとしましょうか」


 大怪我と向き合っているとは思えないような自然体で、何か悪戯をしてしまった子供のように少しだけ舌を出し、彼女は呟く。そして次の瞬間、子供達は信じられないようなものを見た。


「傷が――治っていく――」

「すごい!何アレ!?」

「回復魔法だ!」


 彼らの生活では今まで一度として見たことがないような高いレベルの回復魔法、それが目の前の華奢な女性の手によって行われているということに皆は衝撃を受けた。


「はい、これで傷は治りました。とはいえショックは大きかったでしょうし、今はこのまま寝かせておいてあげてくださいね。そこの君なら、おぶってでも動けるでしょう?」


「あ、ありがとうございます!」「ありがとうございます!」「ザックを助けてくれてありがとうございます!」「あり、がとう、ござ、います」

「いえいえ、どういたしまして。私は私にできることをしたまでですから。それから、この山は死狼が出てるし、死狼用の罠もいっぱい設置されているから、もう不用意にここで遊んじゃだめですよ」


「はい……すみませんでした」


 しょぼんとする彼らに微笑み、それじゃあねと言って女性は歩き去ろうとした。

 その後ろ姿に、思わずペッチは声をかけた。


「おねっ、お姉さんは……何者ですか?」

「私?ふふっ、私はね、そこの先にあるおうちに住んでいる、ただのお姉さんですよ」


 ちゃんと振りかえってくれた彼女が言ったのは、意外なような――そして、彼らにとってどこか納得できるような答えだった。


「あのおうちっ!メイドさんと金髪さんの他に、おねえさんも住んでたんだ」

「あら?二人とは会っていたんですか。それはそれは。でもね――住んでいるのは三人だけじゃないんですよ」


 いったいどういう関係なんだろう、姉妹とかかな、そもそも何者かの答えになってなくない?そんな風に思う彼らを煙に巻くように、彼女は悪戯っぽく笑う。


「――とっても素敵な、私達の理想の殿方が、もう一人」

 

 そう言って、彼女は片目を瞑り、今度こそ振り返らず去って行った。


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