20.子供達の探検(上)
どこの世界にも無邪気で腕白な子供達というのはいるもので。カイルが住んでいる山の麓で、こんな会話をしている五人の子供たちがいた。
「今日の探検はどこ行くー?」
「山の奥に行ってみない?」
「えー、最近死狼が出て危ないってお父さんが……」
「じゃあペッチは留守番しとけよ、俺は別に死狼なんて怖くないもんねーだいたい、騎士や魔法使いのお兄さんやお姉さんが見回りしてくれてるんだから、大丈夫だよ、ねえダイちゃん」
「そうだな、けど、どうしてこんな山奥にあれだけの騎士や魔法使いが……」
「や、やっぱり死狼がそれだけ危ないってことなんじゃ……」
「ペッチの弱虫!ホントに置いてくぞ!」
「大、丈、夫。危険、は、ない」
「でも騎士や魔法使いに見つかったら怒られるぞー」
「いつも言ってんじゃん、怒られたら謝ればいいって」
「まったく、ザックはこれだから……」
なんだかんだと騒ぎながらも、今日の遊び場は決まったようで皆山に登って行く。
勿論、最近よく見かける騎士や魔法使いに見つかると追い返されてしまうのだが、皆幼い頃からよくこの辺りで遊び回っているので、そんなへまはしない。彼らにしてみれば死狼にしても、ペッチと呼ばれた少年以外は本気で怖がっている風はなかった。魔物が現れそうな場所はだいたい分かっている、普通はそもそも現れない魔物と、出会うことなんてないだろう、と。
かくして怖いもの知らずの彼らはいつものように山に登り、いつもとは違う物を見つけた。
「あれ、何だ……?」
「魔法使いや騎士の、休息所じゃないの?」
今まで家がなかった所に、真新しい家が建っていた。怪訝な表情でそれを五人は見つめる。
「いやしかし、生活感が違うっていうか……」
「仕事のための施設っていうより、人が住んでる感じだよね」
「お前ら、何か聞いた……か?」
「知ら、ない」
「もしかして……山賊とかだったりしてっ」
「なっ……馬鹿言うなよ、見回りが見つけるに決まってるだろ!」
「それもそうだねーまあ、新しく引っ越して来たんでしょ」
「こんな不便なところにか?」
「みんな……家の人に見つかったら怒られちゃうよ、もっと静かにしようよ」
「こら黙れペッチ、今俺様が華麗な推理をだなあ」
ごちゃごちゃ言っている間に、その家の扉が開く。五人は藪の中から、こっそりとどんな人間が出て来るのかを見ていた。
「……何、あれ」
「山奥、に、不、釣合」
「メイドさんだーっ!」
「だから静かにしようよ……」
「おいこら上に乗るな重いってか見えん」
「美人だぞー」
「俺にも見せろっ!上からどけっ!」
出て来たのはメイド服に身を包んだ女性。遠目からでも綺麗な人なのだというのはわかる。
「きっとあそこは高貴な貴族様がお忍びで使う家なんだよ!」
「いやいや騎士団の疲れを癒す万能メイドさんかもしれないぜ!」
「そもそも――」
「ちょっと!あなた達どこの子?何こそこそ人の家覗いてるわけ?」
突然背後から掛けられた声に慌てて振りかえると、そこには褐色の肌と金色の髪の女性がいた。こちらも五人が今までに見たことのないような美女である――が、今はその目が釣り上がっていて、子供達は美しさより先に怖さを感じてしまった。
『ひゃっ!ごめんなさーい!!』
「あ、ちょ、こらっ、待ちなさい!危ないわよ!」
女性の言葉も後半はほとんど聞き取れないようなほどの猛ダッシュで、五人は謎の家の前から逃げ出した。
「――ひゃあ、びっくりしたなあ」
「だからやめようって言ったじゃん……」
「うるせーな、逃げられたんだから結果オーライだろ」
「とはいえ、戻るわけにはいかないねー今日はこのまま帰るか」
「戦略、的、撤退」
「あっ!小物入れがない!あそこで落としたのかも……」
「それは残念。それでも戻らないけどな」
「うう……分かってるよ……あのお姉さん怖かったし……」
金髪の女性が追って来ていないことを確認し、五人はふうっと息を吐いた。
そのまま帰り道を歩いて行く。彼らにとっては勝手知ったる山の中、あとはいつもどおり麓に辿り着いて、今日の冒険を笑い話にしてしまえばいいだけ――
と、思っているところに、落とし穴があった。文字通り。
「ふぇっ!?」
少年の一人が、足を何かに取られそのまま転んだ。
「おいおいザック、何ドジってんだ――って、何だこれ!!」
「わあああああああああっ!血、血、血がああああああああっ!」
「痛い、痛いよおおおおおおおおおおおおお……」
他の子供達の焦りと、ザックの叫び声が山に響く。
彼の足は鋭い刃物に挟まれて固定されていた。