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16.病気の子供がやって来ました(上)

「英雄様!カイル様!聖女様!シーシャ様!どうか私の息子を助けてくださいザマス!」


 重そうなのが来た。

 家の扉を叩く音と共にそんな声が聞こえたのはある日のお昼頃だった。


 力があったころの俺は当然回復魔法にも秀でていて、その道のスペシャリストであるシーシャをも凌ぐほどだった。そのため俺に命を救われた者もいれば、その噂を聞いて病気や怪我を治してくださいとやって来た者もいた。だんだん面倒になってきたので、途中からはその人が一番渡したくないようなものを対価に要求することにしたら徐々に減っていたのだが。ちなみにシーシャは頼まれれば対価なしで病人を治療するのでそっちに流れたということもある。聖女様マジ天使。

 さて、時は流れ現在。力を失った俺は治療系の話も当然お断りしたいところだが、シーシャ達の見ている手前、今までと違った対応をするわけにもいかない。シーシャじゃなくて俺が治すことになれば絶対に無理な対価を求めてやろうかと思いながら、とにかく俺は扉を開いた。



 立っていたのは母親らしき女性と、それに手を引かれる十歳前くらいの男の子。女性の方は眼鏡をかけて服もスーツを(この世界でもスーツはスーツだ)ピシッと着ており、真面目で冗談の通じないような印象を受ける。子供の方はどこか怖がりながらこちらを見ている風だが、母親の陰に隠れるようにしながらもちゃんと立っておりどこか体の調子が悪いようには一見しては見えない。

「ああ!貴方が名高いカイル様ザマスね!(わたくし)ヒーチ・タエと申しましてザマス!いきなりご訪問して申し訳ありませんザマス。勿論私だって本当はこんな田舎に……、失礼、家から遠く離れたところに来るつもりはなかったんザマス。けれど!私の可愛いスターちゃんが不治の病にかかってしまいまして、お医者様も治癒魔法使いの魔導師ももう匙を投げてしまったんザマス!もはや頼れるのはカイル様とシーシャ様しかいらっしゃらないのザマス!このままではスターちゃんは剣の修行も魔法の鍛錬も読み書きもそろばんもオコットンもジョッフルパンチもスージャも全部お稽古をお休みしたままになってしまうんザマス!」

「ま、まあ立ち話もなんですから、まずはお上がりください」


 うわぁなんか面倒くさそうな人だ……と思いながらも俺は親子を部屋の中に招いた。

 ちなみにオコットンはこの世界の楽器、ジョッフルパンチはボクシング、スージャは相撲に似た格闘技である。

 


「つまり、スター君には原因不明の腹痛が続いていると……」

「そうなんザマス!どんなお医者様にかかっても魔法使いにかかっても痛みを治すことができずに苦しむスターちゃんが可哀想で可哀想で……どうにかして助けてあげたいと思ってここまで連れて来たんザマス!このままでは習い事も何もできないし、スターちゃんの将来が心配ザマス!なにとぞ、英雄様のお力でなんとか助けてあげて欲しいザマス!」


 捲し立てるように喋るヒーチさん。貴族ではないが子供にたくさん習い事をさせようとしているあたりそこそこ裕福な平民出だ。ある意味増長しやすい立場で、どことなく他人を見下すような雰囲気が漂っている。初対面であまり印象をどうこう言いたくはないが……一方のスター君は不安そうに母親の隣に座っている。その向かい――つまりは俺の隣――に座っているシーシャが、彼に語りかけた。


「スター君、お腹が痛いのは辛いですね……よかったら、どんな風に痛いのかお姉さんに話してくれますか?」


 聖女様は子供の扱いも上手い。同じ高さの目線で見つめられて、スター君はおどおどと話し始めた。


「えっと……その……このあたりがズキズキってして……でもそれからギューって感じにもなって……」


 たどたどしく説明するスター君。まあ大人の俺でも腹の痛みなんてちゃんとは説明できないしな。

 ……そういえば回復力も失ってるから、今の俺は普通に病気になり得るんだよな……転生してから三年間ろくに体調管理なんてしなくても大丈夫だったのに……今年の冬はちゃんと乗り切れるだろうか……風邪をこじらせて肺炎にでもなったらどうしよう……シーシャに頼めば回復魔法で助けてくれるけどそれじゃあ俺が力を失ったことがばれてしまう……

 ――って、いかんいかん!話に集中しないと、不審がられる。転生前だって体調管理はしっかりできていたのだし、今はくよくよとそのことを考えるときじゃない。


「そうですか……スター君、痛いのに我慢できてて偉いですねー」


 俺が暗い妄想をする横で、シーシャは着々とスター君の攻略を進めていた。今は彼の頭を撫でている。ちょっと羨ましい。今度やってほしい――じゃなくて。

 だいぶ心の壁が取り払われたところで、シーシャが本題を口に出した。


「では……まずは私がスター君に回復魔法を使ってみましょう。普通の病気なら、カイル様の手を煩わせることはありません」

「まあ、ありがとうございますザマス聖女様!」


 おおっ!シーシャありがとう!

 俺も心の中で歓声を上げた。力があったときの俺の方が回復魔法の腕はよかったが、シーシャとて聖女。普通の病気ならば彼女に直せないわけはない。これで俺の能力喪失も誤魔化せるなと、俺は心の中でほっと一息吐いたのだった。


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