14.二人に指導を行いました
「そ、それでですね……実は今、剣の修行に伸び悩んでおりまして……なにとぞ師匠に一勝負お願いできないかと……」
そしてシャルロッテの本題はやはりマローと同じだった。
思考回路も成長スピードも似過ぎではないだろうか、あんたら。
俺は同じようになんとか誤魔化す。マローが直前に同じことを言われていることを話すと、シャルロッテは悔しそうな顔になりながらも引き下がった。仲が悪いとはいえお互いの実力はよく知っている同士、言われたことが同じなら納得できるということか。
「しかし……そうなると一体どうやって訓練を積みますかのう……」
マローが心底困ったように呟く。確かに彼らが実力を上げる方法を何か提示しないと、またこっちに相談の矛先が向きそうで俺も困る。何か時間の稼げそうな……と、そこで俺は一つ案を思いついた。
「二人を見ていて、一つ……思いついたことがある」
俺は重々しく告げる。マローとシャルロッテの視線が真剣味をいっそう増してこちらを向いた。
「俺が……なぜ強いのかということだが……俺は、魔法もできるし、剣も扱える。つまり……これらは両方やる方が、相互に能力の補完をし合って、よいのではないか……ということだ」
二人は愕然とした表情をした。ヤバい。流石にそれぞれの道をわき目も振らずに極めた彼らにとって失礼過ぎる発言になってしまったか。真っ青になった二人の顔に、思わずこちらまで漏らしそうになるがなんとか平然とした風を装う。やがて、ぷるぷると震えながらマローが口を開いた。
「流石はカイル師……今まで誰も考えすらしなかったことを……」
「幼い頃から、魔法使いか騎士、目指す方向を一つに絞り、あとはひたすら鍛錬を積むというのが常識だったが……我々はそれに縛られていたのか……?」
――え?いいの?
シャルロッテも視線を宙に彷徨わせながら、なんとか声を絞り出しているといった感じだ。いや二人とも俺のでっち上げにそこまで真剣に反応されてしまうと困るのだが。
しばらく何かを考えている風だった二人だが、やがて、
「「……やむを得まい」」
揃って同じことを呟くと、二人は向き合った。
「シャルロッテ殿……思えば我らは、つまらぬことでいがみ合っておったものだな」
「奇遇ですねマロー魔導師。私もどうやら騎士団の空気に染まって、目が曇ってしまっていたようです」
二人は見つめ合って――がっちりと握手した。
* * * * *
「カイル=サーベルト殿が魔導師と騎士の精鋭を呼び寄せたというのは本当か?」
帝国皇帝エルク=ラウタボクリスは側近にそう尋ねた。万事優秀な彼の懐刀は、表情一つ変えずに淡々と答える。
「はっ、陛下。話によると死狼の討伐隊を組ませたということですが……」
「そんなものどうとでも言える!だいたいあの男にといって死狼など我らにとっての虫みたいなものだ!それよりも俺の目に見えないところで彼らを私兵化しようという企みに決まっている!」
帝国の魔導師や騎士は市民にも信頼されている。それらがカイルの指示に従うようになれば、彼がクーデターを起こすことはぐっとやりやすくなるだろう。カイルの力をもってすれば無論一人でも帝国と戦えるのだが、市民の支持を集められなければ泥沼化する可能性は残っている。カイルの行動はそれを排除するものとしか考えられず、半ばやけくそになりながらエルクは叫んだ。仮にそれが事実だったところで英雄カイルを止める手立てなど何もないことを知っているからだ。だがそこで彼はふとある可能性に思い当たる。
「しかし……騎士と魔導師は仲が悪い。あるいはかえって仲間割れをしてカイルの足を引っ張らないとも限らないぞ……」
そこで初めて、彼の側近は困ったような顔をした。
「陛下……大変申し上げづらいのですが……双方のトップが、和解しました」
「……へ?」
思わず皇帝らしからぬ声が出てしまった。騎士と魔導師の仲の悪さは何世代にも渡るもので折り紙つきである――というか、歴代皇帝自体がそれをクーデター対策として利用してきた節もあるのだ。
「なんでもカイル殿が、魔導師なら剣の、剣士なら魔法の技術を学ぶことで本業の力が向上すると示唆したらしく……今ではお互いがお互いを師と敬う仲だとか」
「なんだそれは!そんな話は聞いたことがないぞ!それで、その結果はどうなったのだ?」
「騎士は魔法を学ぶことで多角的な攻撃方法とそれに対する防御策について視野が広がり、魔導師達は剣の腕を磨くことで体力がつきこれまでなら反動による疲労が強すぎた魔法を連発できるようになったと、双方この結果には大満足だそうです」
エルクは頭を抱えてうずくまった。
「帝国最強の二人を和解させ……兵力を強化し、しかも精鋭を私兵化……場合によっては秘密の特訓を授けて信頼を勝ち得ているなんてことも……ああ、終わった……やはりカイルはクーデターを……」