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12.魔法使いのトップがやって来ました

「一度は貴方に攻撃を仕掛けた身として、はなはだ不躾なことを申し上げているのはよく理解しております。その上で恥を忍んで、この老骨に魔法の手ほどきを授けてはいただけないでしょうか」


 マローが最初に俺のところに来た時、俺は彼のことを忘れていた。

 なぜなら、最初にマローと戦ったときは一瞬で、おまけに俺は酷く酔っ払っていたからだ。だから何を言っているのかあまり分からなかったが、どうやら俺の力量に感動して、帝国筆頭魔導師を名乗るのがおこがましいと思ったらしい。


「しかしなー教えると言っても、俺にもなんでこんなに強い魔法が使えるのかわからんぜ」


 これは正直な話だった。

 転生したら魔法が使えたのだから仕方がない。しかもどうやら転生したときに力が付いたらしく、原因も皆目不明だった。


「ならばせめて貴方を師として敬い崇めるだけでも!ときおりその技を見せていただけるだけでも勉強になりますので!」


 七十過ぎの老人にそう言われてもどうとも思わなかったが、特に迷惑にもならないと考えたので好きにしろと言っておいた。

 その頃は力を失うなんて、思いもよらなかったからだ。

 今、怒りを込めて叫びたい。

 しっかり断っとけよ!当時の俺!




 かくして帝国最強の魔法使いに、俺は挨拶をされることになってしまった。

 魔力を失ったことを知られる相手として最も危険な人物なのは間違いない。一度恥をかかせていることもあるし、力を失ったと知られればこれ幸いと復讐される可能性がある。俺は緊張してカチコチになりながら、マローと向き合った。


「や、やあ久し振りだなマロー……」


 皇帝陛下には敬語を使ったが、よく考えると急に敬語になるって怪しいんじゃね!?と後で思ったので以前と変わらない口調にする。しかしそのせいで余計に胃が痛い……

 しかしマローにとってはいつも通りの俺なので、彼は特に何も気にした風はなくただ深々と頭を下げた。


「ご無沙汰しておりますカイル師。わしはカイル師に見せられた秘義に感銘を受け、鍛錬を重ねた結果更に力量が向上いたしまして、魔法の探求に終わりはないものだと再確認するとともに、今一度偉大なる師とお話せねばと思いまして……」

 

 立場のある老人というものは話が長い。いつもなら適当なところで話を遮るのだが力を失ってヘタレた俺にはそんなことをする勇気もなく、マローはマローで高揚感にまかせてとめどなく話を続けていた。まあ要は、“おかげさまでステップアップできたのでご挨拶に来ました”というわけだ。まったく律儀なことである。帝都で勝手にやっていてくれればいいものを。


「――とはいえ最近はまた壁のようなものにぶち当たりまして。このようなことを申し上げるのは本意ではないのですがなにとぞカイル師に今一度お手合わせ願えないかと」

「――ファッ!?」


 思わず飲んでいた飲み物を噴き出してしまった。今マローは何て言った!?

 俺の様子に驚いたのか、マローが慌てて言葉を繕う。


「あ、いえ何も本気の師に相手していただきたいなどと思い上がったことを言うのではありません。本気の師の強さがいかほどのものかはあの“災厄”の際によく理解いたしました。かつて貴方に挑んだわしがどれほど愚かだったのかも、そのときに貴方がいかに手加減してくださっていたのかも。なので不躾な話で申し訳ないのですが、本気でなくてよいのです。力の一端をわしに向けてくださるだけでも……」


 そう言いながらマローは床に手をつく。彼のことを知る帝都の人間がこの様子を見たら何と言うだろうか。だが俺にとってはそれどころではない。なんとかして、手合わせなしでお引き取り願わないと能力喪失がバレてしまう!!


「あ、あの……だな。マローの魔法に向き合う真摯な態度はよく理解できているし手を貸してやりたいのだが……」


 どうする、どうればいい!?マローに不審がられずにこの場を治める方法を考えるんだ!頭をフル回転させて俺は必死で完璧な言い訳を求める。そして――



「ま、まだマローの力量は弱過ぎて俺が相手をしても何もつかめないだろう。もっと力量を上げてからにすればいいと俺は思う」



 やったことは、『ザ・問題の先送り』でしかなかった。




「ま、まだわしの腕ではかないませんか……」

 

 がっくりとうなだれるマロー。真実を知ったら怒りにまかせて殺されそうだ。怖い。

 だが恐怖を悟られないようにして、俺はなんとか口を開く。


「そ、そう気を落とすな。もう少しだとは、思うんだ。そう、もう少しだとは」


 ……って!また変なこと言ってしまった俺のバカ!!あと百年はかかるなくらいのことを言いたかったのに雰囲気に流されてしまった。そしてマローの目が輝く。


「も、もう少しなのですか!」

「そ、そうもう少しなんだ。だが今マローは壁に当たっているんだろう?ならばそのもう少しは、実はもう少しではないかもしれない……」


 適当極まりないことを言っている俺だが、マローは何か考えこんでしまった。


「師に手合わせ願えば強くなれる、という域に至るにはまだ強くならねばならない……しかし今の時点で強くなる道が見えていない……ならば師に手合わせ願いたいがその域に至るには強くならねばならない……これが世界の真理……実に魔法の探求と言うものは奥深いですな……しかし、結局わしはどうすれば……」


 そのまま上達の方法を俺のいないところで探し続けてほしい、そう思っている俺の耳に、別の声が入ってきた。


「失礼、カイル師匠はいらっしゃいますか?」

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