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1.チート能力を失いました

(あなたが転生してから今日で三年が経ちました。“適応期間”の終了に伴い転生の際に付与された全ての能力は現時点を持って喪失します。今後はこれまで培った経歴を元に一個人として豊かな転生者ライフを送られることをお祈りいたします)

 どこか無機質でお役所的な声が、睡眠中の俺の脳内に響いた。

 そして残念なのは、それが事実である(・・・・・・・・)と納得させるだけの不思議な力がその声には備わっていたところ。

 だから俺は、目覚めた瞬間、相当顔が蒼くなっていたと思う。心配そうに俺を見る彼女達(・・・)に向けて、俺は恥も外聞もなく叫んだ。


「今日限りで隠居しますうううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」




 水瀬寺(みなせでら)顕作(けんさく)という名前がかつてはあった。しかしそれも今では過去の話。俺は地球での生活に不慮の事故で別れを告げ、何故か別世界のワイゼンハマーン帝国というところにカイル=サーベルト青年として転生し(意識を奪った……というか、直前に死んでいたカイル青年の魂の抜け穴に俺が入りこんだらしい)、この手の物語のお約束のごとく様々なチート能力を持っていたおかげで大活躍し、勇者に祭り上げられ、“災厄”を止め世界を救い、英雄として名を上げたのだが――


 その間に、調子に乗ってしまった。


 いや、今ならわかる。昨日までの俺、何をやっているんだ!!と叫びたくなるほどに調子に乗っていたことが。しかし力を手に入れて思い上がった俺は後々のことなんて考えもしない。なんといっても魔法剣術共に最強、一人で軍隊よりも強かった。おまけに回復能力もあり、毒を飲んでもびくともしないとあれば多少、心が大きくなったとしても不思議はないだろう。

 そう、多少(・・)ならよかったのだ。

 翻って今の俺を見れば、帝都の一等地で巨大な邸宅を構え、家には何十人もの美女を侍らせて、帝国内外の珍味を取り寄せさせては食っちゃ寝生活。皇帝からの呼び出しにさえ応じず、何かあったときはこちらに出向かせる始末。――と、いうか侍らせてる美女の一人って、元・皇妃だし……

 どう見ても多少、どころではない。調子に乗り過ぎも極まれりである。

 幸いにも、俺の英雄としての活躍もまた極めつけだったからか、現時点で俺に対して明確な害意を持っている人間は近くにはいない、はずである。

 だけどそれも、昨日までの話であり、力を失った俺は急激な疑心暗鬼に襲われる。

 同じ家に住んでいる彼女たちの中に、俺を暗殺するよう誰かから命じられた者はいないか?皇帝は着々と俺を討伐するための軍事作戦を計画しているのではないか?

 今までは転生チートで何も怖くなかった可能性が、次々と俺の脳内に浮かんできた。

 転生チートが期間限定のものだったなら、最初からそう言っておいてくれよと思うが、今さら世界の不思議に文句を言っても仕方ない。そもそも、調子に乗らなければ例え力を失ったとしてもかつての英雄として幸せに暮らせる未来があったはずなのだ。

 それを失ったのは自業自得としか言いようがない。だから俺は隠居を希望した。もう権力に対する野心なんてありません、珍味を取り寄せて帝都の経済を一人でかき乱すこともしません、美女達を侍らすのもやめます、だからどうかもう俺には関わらないでください。

 そういうメッセージが伝わるようにと祈りつつ、俺は隠居の希望を出した。現時点では英雄の威光が通じるのもあって、俺の希望はトントンと通り、帝都から適度に離れた山奥に小さな住まいをもらうことができた。今まで住んでいた豪邸に比べれば雲泥の差だが、この方が俺の野心を疑われずに済む、さあこれからは畑仕事でもして自給自足の生活をのんびりと送るぞ――と、思っていたのだが。


「なんで……ここにいるの?」


 俺は、かすれた声で目の前にいる美女三名に問う。

 屋敷で侍らせていた数十名のうちの三人。



「カイル様……お側に置いてはくださらないのですか――?」


 切なげに俺を見上げるのは小柄な銀髪の聖女・シーシャ。類稀なる回復魔法の使い手で聖女として帝国民に絶大な人気を誇る、どことなく幸薄そうな雰囲気を出す美少女。

 汚れなき純白の聖女を自分の色に染める――ということが楽し過ぎて、ついいろいろ(・・・・)やり過ぎてしまった相手でもある。



「ちょっと、あんた一人で何を勝手に決めてるのよ!」


 少し目を吊り上げてこちらを睨んでいるのは、大商人の娘である、ラーニャ。少し褐色の肌と金色の髪、そしてスタイル抜群の体型。どんな衣服でも似合う彼女に、その豊富な財力でもって、帝国の様々な衣装を着させては……あ~……その……イチャイチャしていたのはこの世界に来てからの最高の思い出の一つと言っていいだろう。



「ご主人様、これからも身の回りのお世話をさせてください、よろしくお願いします!」


 犬っぽい、と言っては失礼な言い方になってしまうだろうか。どこか必死な感じでそう言う彼女は、平民出身のメイド、エミナだ。俺自身元の世界では普通のサラリーマンだったこともあって、高貴な出自の女性とばかり遊んでいると何か物足りなさを感じてしまうことがある。そんな空白を埋めてくれるのに彼女は最適だった。


 ――と、まあかつてのハーレムメンバーの中でも主要三人集が俺の隠居先に押し掛けていた。

 どうしてこうなる!


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