後悔が先に立たないのは当たり前
ガタガタ、ゴトゴト。
安物の馬車に揺られて、私の気分は超最悪。
馬車の行き先はこの国の神殿の中でも特に戒律の厳しい所で、一度入ったら二度と俗世には戻れないと言われていて。つまり、私は修道女として女神様に仕えることになったのだ。一生清い乙女のまま…
なんでこんな事になっちゃったんだろう。私は重い溜息を吐いた。
あの日、王太子殿下の御前でベアトリーチェ様から数々の疑いをかけられた後、私は王太子宮を騒がせた罰として、自室で謹慎することになった。
大丈夫よ。殿下はベアトリーチェ様より私のことを信じて下さるはず。
プレゼントに込められた意味を知らなかったり、成り行きで男の人と二人きりでいたりしたけど、私は何も疚しいことはしていない。だから、すぐにでも殿下が私の身の潔白を証明してくれる。
そう信じていた私に下された沙汰はまさかの修道院行き。
私がやらかした事は、淑女にあるまじき行動であり、見逃すことの出来ない不貞行為なのだそうだ。「そんなの知らなかったし!」じゃ済まされないレベルらしい。
いや、実際知らなかったんだけど、どうやら上位貴族の間では常識だったらしく… 「どうせ私は下級ですよ!」と、やさぐれかけたけどエミーリアの記憶の中にありましたよ、ちゃんと。没落しかかっているとはいえ伯爵令嬢のエミーリア。幼い頃から淑女教育は受けていてしっかり教えられていた。エミーリアの基本データとして脳内にインプットされていたのに、活用するどころか存在すら忘れていたし… 今頃思い出したって遅いし…
つまりあの日一生懸命弁明した行為は、複数の男に色目を使っておきながら「私、そんなつもりはなかったんですぅ」と、いけしゃあしゃあとのたまった恥知らずの女と映ったわけですよ、はい。
そんな私に王太子殿は愛想が尽きたようで、即行候補からはずされました。と同時に、王家に対して重大な裏切り行為を犯した者に罰をとの声が上がり、死罪が妥当と言われたのを王太子殿下の特別な恩情で修道院送りになったのだとか。「だから感謝するように」と役人に言われた。
感謝… できるか!!
いや、死罪が良かったなんて言いませんよ。ていうか、あれで死罪って王家こわっ!!
だけど、なんで修道女? ただの謹慎でよくね? しかも、この国で一番戒律が厳しいって…
私、そんなに、悪い事をしたんでしょうか… したんですね、きっと。
それにしても、私の頭はどうしてこんなにポンコツなんでしょうか。エミーリアの記憶も、ベアトリーチェの記憶も持っているのに、それを上手に活かすことが出来ないなんて。死の間際に恋をしたかったと願った一番初めの記憶が、私の心の大部分を占めていて頓珍漢な行動をしてしまうようだ。
人生を三度も体験しても、まともな恋愛が出来ないなんて。私の恋愛スキル、低過ぎ。
このまま女神様に仕え、人生清いまま終えるのか。残りの人生あと何十年あるの? 一切の煩悩を捨て、清廉潔白・質素倹約な生活をずーっと続けるなんて… ああ、女神様。お願いします。私にもう一度チャンスをください!
今度こそ。今度こそ心残りのないようにします。間違った対応や失敗などしないように細心の注意をはらって全力投球しますから。もう一度だけ…
私は必死に祈った。
それこそ爪が手に食い込むほど握り締めて。
どれくらいそうしていただろうか… 突然凄い光に包まれるとか、女神様の声に導かれる。なんて事が起きるわけもなく、ガタガタと馬車の音が聞こえてくるだけ。
私は握り締めていた手をほどき「まあ、そうゆうもんよね」と呟いた。
ガタガタ。ゴトゴト。
単調な音を繰り返して馬車は走り続ける。
あとどのくらいで修道院という名の牢獄へ着くのだろうか。そう思いながら窓の外を覗いてみた。
……? おかしい。随分走ったはずなのに、まだ王都にいる。というかこの道、王太子宮に向かっている。
私は馬車の中に目を移した。さっきとは違う高級感にあふれる内装に変わっている。
自分の着ている服を見てみた。これは、このドレスは…
窓に映る私の顔。金髪碧眼の美しい面差しをしたベアトリーチェがいた。
この衣装には覚えがある。ベアトリーチェが妃候補として王太子宮に上がる時に着ていたものだ。
有り難うございます女神様! 今度こそ念願が叶うよう頑張ります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここまで勢いで書いてきたので、自分でもちょっとココ矛盾してるな… なんて思いながら話を進めてきました。今のところ読者様に受け入れられていると勝手に思い込んでおります。
さてこの後の展開ですが、さすがにこのまま突っ走っては最終回にたどり着けそうにありません。ので、不定期投稿になります。
次回は早ければ木曜あたりかと… 頑張りますのでこれからも応援宜しくお願いいたします。