逆ハーってなんですか?
「申し訳ございません。このような高価な品々は私の身分では分不相応でございますね。すぐにお返し__ 」
「そんな事を言っているのではないのです」
えーと、それじゃ何がダメだったんでしょう?
「いいですかエミーリア様。殿方が女性に物を贈るのは十中八九そのお方の気を引きたい為でございます。特に高価な品を贈る時には、自分の好意を受け取ってくださいというメッセージが込められているのですよ」
ええっ! そういうもんなんですか。てっきり貧乏で困っている私を見かねて、助けてくださっているものとばかり… だって侯爵家の嫡男が、そんな下心ミエミエなことするなんて思う訳ないじゃないですか!
「わ… 私、そのような気持ちが込められているなんて知らなくて。お茶会に着ていくドレスがなくて悩んでいた私を見かねて、善意で用意してくださったものとばかり… 御免なさいユーリウス様。私、ユーリウス様の好意を受け取るわけにはいきません。ですから、頂いた物はちゃんとお返ししますので許して下さい」
私はユーリウス様に向かって深々と頭を下げた。
「いや、いいんだ。返さなくていい。そう、君が困っていたから用意しただけで、妹が言うような事はないから。そう、そんな気持ちは全然入ってないからね。なんたって君は殿下のお妃候補なんだし。殿下のお相手に横恋慕するなんて、そんなことあるわけないじゃないか」
ユーリウス様。ものすごく挙動不審です。そこは無言で頷くだけで良かったのではないでしょうか。それでは「横恋慕していました」って告白したようなものです。動揺して言わなくてもいいことまで言っちゃった感がパないです。
今気付きましたが、殿下は入室されてから一度もお言葉を発してはおられません。
ベアトリーチェだった時に冷たく恐ろしい表情で睨まれていたのを思い出し恐る恐るお顔を拝見しました。
ひょっ、表情がありません! これはこれで恐いです。
私と目が合ってもニコリともしてくれないです。私は泣きそうになるのを必死に堪えました。
「まっ、いいでしょう。そういう事にしておきますわ」
やはりベアトリーチェ様が場を仕切っておられます。どうしてどなた様も何も言わないのでしょう。ベアトリーチェ様の流れるような弁舌に、口が挿めないのでしょうか?
「ですが、エミーリア様。この護衛騎士とのことは、言い逃れは出来ませんわよ」
「……」
えーと、何かありましたっけ?
「さすがに、この件に関しては『知りませんでした』は通じませんわよ」
「すみませんベアトリーチェ様。何の事を言っていらっしゃるのか全然分からないのですが」
「白々しい! 私、知っておりますのよ。ちょうど一月くらい前でしたかしら、あなたとこの護衛騎士が深夜の薔薇園で密かに会っていた事を!」
あー、あれですか。あれも事の発端は貴方様です。
王太子殿下から頂いた大切なブローチを見せて欲しいと仰ったのでお見せしたら、薔薇の茂みに投げ込んだんですよね。あ な た が。「あら御免なさい手が…」なんて言ってたけど、振りかぶって投げてたし。おかげで何処に落ちたのか全然見当がつかなくて、夜になっても見つからなくて、半泣き状態で探していたらそこにパウル様が通りかかられたんです。そこから色々やり取りがあって、その後一緒にブローチを探してくださったのです。
本当、王太子殿下をはじめ皆様お優しい方ばかりで、ベアトリーチェ様や他の候補の方々から受けた、意地悪や嫌味で落ち込んでいる時にフォローしてくださるんですよ。
「妃候補でありながら、他の殿方と密通などと。恥を知りなさい!」
「誤解でございます。私は密通なんてしておりません!」
「でも、夜中に二人きりでいたのは事実でしょう」
「パウル様は私が無くしたブローチを探すお手伝いをして下さったのです。決して疚しいことはしておりません」
「それが嘘か真か確かめようがありませんわね」
「事実です。本当です、信じてください。女神様の名にかけて誓えます」
「口ではなんとでも言えます。便利ですわね」
「ベアトリーチェ様。エミーリア様の申されている事は事実です。自分は__」
「おだまりなさい! あなたに発言を許した憶えはありません」
あわや修羅場と化す寸前に、王太子殿下の声が響き渡った。
「もう、よい」
その一言を残し、殿下は席を立ってしまわれた。