なんだか前回と展開が違うんですけど
それまで微動だにしなかった私がいきなりガサゴソしだしたので、お隣に座っていたカタリーナ様が不審に思ったのでしょう「どうかなさったの?」と声をかけてきました。
私は顔を上げることなく「ええ、ハンカチーフが見当たらなくて。おかしいな、どこにいったのかな」そこで私はハッとしました。
今はベアトリーチェ様主催のお茶会で、王太子妃候補の皆様が勢揃いで、私はその中で一番身分が低くて… こんな無作法をしたら、またベアトリーチェ様からネチネチ嫌味を言われてしまう。
血の気がサーっと引くのを感じながら、私は恐る恐る顔を上げた。うわっ、皆様の視線が私に集中しているよ! ここは一刻も早く無礼を詫びなければ。
「もうs「あなたがお探しの物はこれかしら」せん…えっ?」
ベアトリーチェ様が一枚のハンカチーフを取り出して見せた。それは紛れも無く私のハンカチーフで。なので私は失礼にならないように拾ってもらった御礼を言った。
ハンカチーフを受け取るために席を立ちベアトリーチェ様の席に歩み寄りながら、頭の中では盛大にクエスチョンマークが飛び交っていた。
なんだか展開が違う気が… 記憶違い? それとも、こんなカンジで始まるんだったっけ?
私がベアトリーチェ様の背後に立つと、ベアトリーチェ様はハンカチーフを広げながら再度聞いてきた。
「間違いなくエミーリア様の物ですのね?」
「はい、さようでございます」
ここから始まるのか? ハンカチーフの取り合いが!
身構える私の顔を見つつベアトリーチェ様がニヤリと笑う。あ、なんか、ヤな笑い方…
「変ですわね。これ、男物ですわよ。それにほら、ここ。イニシャルがCですわ。あなたとも王太子様とも違っています。これはどういうことですの?」
言われて私は思い出す。これは貴方様の不注意(と見せかけた嫌がらせ)で一張羅のパーティー用ドレスが赤ワインまみれになり、王太子殿下とのダンスが出来なくなって中庭で泣いていた時、慰めてくださった宰相様の御子息クリストフ様のものです。
クリストフ様はそれはそれは親切な方で、悔し涙でボロボロだった私に優しく声をかけて下さいました。そして、御自分のハンカチーフが汚れるのも気にせず、顔にかかったワインを拭いて下さったのです。
後日、洗って返そうとしたところ、私に持っていて欲しいと仰られて、それでお互いハンカチーフを交換することにしたのです。
ということを、ベアトリーチェ様の機嫌を損ねないよう説明するにはどう言えばいいのでしょう。
「答えられないのですか? これは由々しき問題なのですよ」
「……へっ?」
今、私は王太子殿下の私室におります。
真ん中にこの部屋の主アルトゥール殿下。その隣にベアトリーチェ様。反対側のお隣にはクリストフ様と殿下の御友人でありベアトリーチェ様の兄君でもあるユーリウス様。そして殿下の背後には護衛騎士、確かお名前はパウル様だったはず。
あれ、このシュチ、前回でもありましたよね。
微妙に立ち位地が違っているけど。
登場人物も若干違っているけど。
これは もう 嫌な予感しか しない…
「私、気付きませんでしたわ。クリストフ様とエミーリア様が想いをかよわせあう仲だったなんて」
いきなりベアトリーチェ様が爆弾発言を落としました。何て事を言うんですかベアトリーチェ様。殿下に誤解されちゃうじゃないですか。私は反射的に否定の言葉を口にした。私はクリストフ様にそんな想いなんてない。私が好きなのは王太子殿下だけ。
「あら、ハンカチーフを交換し合うなんて、そうとしか思えません」
なんですと?
ベアトリーチェ様が仰るには、二人の関係を周囲に悟られてはならない恋人同士が、お互いの持ち物を交換し合って想いを深めていくんだって。どんな障害があろうとも、本当に好きなのはあなただけ… みたいな。
そんな深い意味が… 上流階級の常識はいちいち面倒くさい。
「そ、そんな意味があるなんて私知りませんでした。クリストフ様もそのようなお気持ちではなく、困っていた私にハンカチーフを貸してくださっただけでございましょう?」
ちょっと、クリストフ様。そこで なんで はっきり きっぱり「そうです」と言ってくれないんです。「わ、私は…」なんて、ポツリと言ったきり黙ったりして。そんな態度をとられたら皆さんが勘違いするじゃないですか。
「それに、それだけではありませんわ」
まっ、まだなんかあるんですか?
ベアトリーチェ様主導で話がドンドン進められていきます。
「エミーリア様は本当に甘え上手で… 身内の恥をさらす事になりますけど、我が兄ユーリウスにそれはそれは巧みに取り入って… ほら、その身に着けていらっしゃるドレスやアクセサリー、お兄様からの贈り物なんでしょう? 他にも色々貢がせているようですわね」
えっ、それってダメなの?