お茶会で私は回想中
爽やかな秋風の中、王太子宮の中庭ではベアトリーチェ様主催のお茶会が開かれています。
お妃候補5名が勢ぞろいし表面上は和やかに歓談なんかしております。
そんな中、私エミーリアは適当に相槌をうちながら物思いに耽っておりました。この一年、大変だったなぁ… と。
当初20名近くいたお妃候補者は、ベアトリーチェ様がいらしてから『ベアトリーチェ様と比較され自信喪失して辞退される方』『ベアトリーチェ様に心酔してご遠慮される方』または『公衆の面前で赤っ恥をかかされて逃げ帰る方』など、様々な理由によりあっという間に減っていきました。ベアトリーチェ様が王太子宮に上がられて三ヶ月で約半数となり、その後も順調に(?)その数を減らしていきました。ベアトリーチ様の参戦から一年、候補者は5名に絞られています(というか、ベアトリーチェ様とベアトリーチェ様の攻撃に耐え抜いている4人と言うべきか)。
ここまでは前世の記憶通りです。
いやー長く辛い日々でした。
ベアトリーチェ様は侯爵家の中でも3本の指に入るほどの名家のご出身で、おまけに父親は実力者。
没落寸前の貧乏伯爵家出身の私が同じ候補者だということに納得できないらしく、ことあるごとに厳しいダメだしをされました。理不尽でどんなに不公平であっても、自分より身分の高い方に歯向かう訳にはいきません。この一年、ひたすら忍耐の日々でした。
ホントよく我慢したよ。我ながら誉めてあげたい。もし、前世の記憶が無ければ早々に尻尾巻いて逃げてたよ。「この試練は一年で終わる。妃に選ばれるのは私」何度このフレーズを唱えたことか。
それにしても、ベアトリーチェ様は凄いです。天下無敵です。
まだ15歳だというのに礼儀作法は完璧、ドレスや宝石のセンスは抜群。ダンスを踊らせれば蝶のように軽やかに舞い、会話術も巧み。おまけに金髪碧眼の美少女。非の打ち所がありません。
私の前世がこの人だったなんて、なんか信じられなくなってきました。
さて、お妃選びもそろそろ終盤です。
私の記憶が確かならこれから事件が起きるのです。
エミーリアが手に持っていたハンカチーフをベアトリーチェが自分の持ち物と勘違いして、エミーリアを泥棒呼ばわりしハンカチーフを返すようせまるのです。これにはさすがにエミーリアも従うわけにはいきません。初めてベアトリーチェに口答えしハンカチーフを渡そうとはしません。その態度に腹を立てたベアトリーチェがエミーリアよりハンカチーフを奪おうとして揉み合いになり、そのせいでハンカチーフが裂けてしまうのです。
この時ベアトリーチェは自分の勘違いに気付くのだけどそれを認めず、それどころか揉み合った弾みで尻餅をついてしまったのをエミーリアに突き飛ばされたと言い掛りをつけるのです。
そして侯爵令嬢に無礼をはたらいたとして、強制的に候補を辞退させ、王太子宮から追い出そうとするのです。
……まったく、何やってんだ前世の私。
そんな事をしてバレないと思ってたんですかね。
まあ、あの頃の私は、世界は自分中心で動いているって本気で思ってましたからね。事実、なんでもかんでも思い通りに物事が進んでいきましたしね。
だからって、こんなことをしちゃいけませんよね。
「自分は何も間違ったことはしていない。ハンカチーフは自分の物だ」で、押し通しちゃったし。事実を捻じ曲げてエミーリアを悪者にするしね。
今思えば自業自得。天罰が下るのも当たり前か。
さて、脳内散歩はこれくらいにして。ハンカチーフ、ハンカチーフっと…
あれ? ……ない。