勘違い令嬢は気付かぬうちに悪役令嬢となる
私、リーゼ改めベアトリーチェと申します。
生まれ変わった私は、前世での願いが叶えられていました。
金色の巻き毛にサファイヤの瞳。美しく華やかな顔立ちに魅惑のプロポーション(になるだろう。きっとなる!) 侯爵家の令嬢として生まれた私は、幼い頃から何不自由なく甘やかされて育てられました。
オーッホッホッホ… と高笑いしたくなる程のステータス。
何これ、やったわ。
前世があまりにもアレだったから、きっと女神様が不憫に思って私の願いを聞いてくださったに違いない。
私はこの世界の女主人公。この世の全ては私のためにある。そう私は信じて疑わなかった。
同じ魂を持っているというのに、外見と育ちが違うだけで人間ってこんなに性格が変わるのかって程、私は社交的で勝気なお姫様に成長していった。
私が14歳の誕生を迎えた日に、この国の王太子アルトゥール様のお妃候補として王太子宮へ上がるようにお達しがあった。
侯爵家の令嬢とはいえまだ社交界デビューも済ませていなかった私。それまで王宮に行った事も王太子様に会ったこともなかった。けれど噂だけはバンバン耳に入っていた。まあ、あれだよ。貴族のお姫様とはいえ、やっぱり王子様には興味があるんですよ。おまけに、王太子アルトゥール様は見目麗しく教養深く、そして王者に相応しいお心の広い貴公子で、この国の乙女の憧れの的だともっぱらの評判だ。
そんなお方の花嫁候補…
キタ、きた、来たわ___っ!
私をヒロインにした物語が、今始まるのね!
そして初めてお会いした時、ビビビッと感じたのです。
ああ、王太子様は私の運命の人だと。
私はこの方と大恋愛の末に結ばれて、いつまでも幸せに暮していくんだ。あの物語のように。
王太子宮には私と同じように花嫁候補という名目で十数人の女性がいたけど、そんなのはライバルでもなんでもないわ。 王太子様に相応しいお相手は、この国一番の美貌と家柄を兼ね備えた私以外他にはいない(きっぱり)。
私は今まで培ってきた知識と教養を最大限に活かして、他の令嬢方との差を見せ付けた。
王太子様に『一番相応しいのはこの私』アピールは抜かりなく。そしてライバル令嬢達には、自分の身の丈を知って大人しくしておく様に忠告した。
こうして私は自他とも認める最有力候補になった。
一年の月日が流れ、巷ではそろそろ王太子様がお妃様を決めるらしいとの噂が立っていた。そんな中、私は王太子様の私室へ呼び出された。
こっ、これは、いよいよなのね。
おそらく正式な場で発表する前に、内々に申し伝えられるのに違いない。
ああやっと。やっと王太子様を私だけの王子様に出来る。
月日が経つうちに花嫁候補もだんだん絞られてきて、今王太子宮に住まうのは5名ほどになっていた。
王太子様は、この5名を分け隔てなくお相手していた。
個人的にお会いすることなく、お話しをするのだって何時も5人一緒。舞踏会でエスコートしていただいた回数も、踊る回数も、贈り物を頂いた回数も(ちなみに品物も)みんな同じ。
仕方ないわよね。皆、同じ候補なんだもの。
だけど、私は内心イライラしていた。
他の候補者なんて全てにおいて私の足元にも及ばないのだから、自分たちの分をわきまえて早く辞退すればいいのに。そう思いながら見てたっけ。
でも、その歯がゆい状態も今日で終わりね。
私は侍女を伴って王太子様のお部屋に伺った。
たとえ結婚が決まったお相手でも、女神様への宣誓が済むまでは二人きりでお会いするわけにはいきませんものね。
私ははやる気持ちを抑えながら、開けられた扉をくぐる。と、そこには何故か7人の男女がいた。
……?
えーと、これはどういうことかしら。
なにゆえこんな大勢の人が?
真ん中には王太子様。その隣には何故か昨日候補を辞退したはずの伯爵令嬢エミーリア。そのお隣に王太子様の御親友である宰相様の御子息クリストフ様。その反対側の隣には他のお妃候補。そして王太子様の背後には護衛騎士。
私は疑問に思いながらも、そんなことは態度に表さず淑女の礼を取った。そしてニッコリ微笑みながら見上げると。
そこにはいつもと違って、冷たく恐ろしい面持ちの王太子様が…
いつもなら王太子様のお姿を見、お声を聞くだけで心が熱くときめくのに、今は恐ろしくて身も心も縮こまってしまった。
それから何を言われ自分がどう受け答えしたのか、よく思い出せない。
ただ、その日の内に私は候補をおろされ、実家に戻されたのだった。