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メイドの知らない彼らの事情。 4

 =====



 翌日、前日に捕まったヘストン伯爵の汚職騒動は、昼過ぎには号外としてばら撒かれ、フィランジの王都バルメースの隅々に知れ渡る事となる。

 家宅捜索の対象となったヘストン伯爵の別邸は当然封鎖され、リリアは数日を伯父マルスの家で過ごし、一週間経って漸く主不在の別邸に戻る事ができたのだが、リリアはすぐに屋敷を追い出されて伯父の家に舞い戻った。


 伯爵が捕まったとしても、屋敷での仕事はまだ残っていた。

 しかし冤罪だったとはいえ容疑者として捕まってしまったリリアへの風当たりは強く、同僚や上司からすっかり悪者扱いにされてしまい、もともと気が弱いリリアは早々に暇乞いをするしかなかったのだ。


 もう一度城で働く訳にもいかず、再びマルスに書いて貰った紹介状を片手に方々を回ってはいるのだが、状況はあまり芳しくない。

 学術で功績を上げ、一時期はそれなりにマルスの名が知れたと言っても、所詮準男爵では大したツテがある訳でもなく、加えて一部の貴族の間では、もう既にリリアの話が伝わってしまっていた為、殆どの家で門前払いにされてしまう。


「お前はまだ若いんだから、なにも無理にメイドとして働く必要はない。ユリアが引き継ぎはしたが、お前のお父さんのウォーレンス商会だってまだ残ってるんだ。お前の性格では大変かもしれないが、ユリアに頼めばお前にあった仕事なり結婚相手なり探してくれるさ」


 落ち込むリリアにマルスはそう言ってくれるが、居候をしている上に紹介状を書いて貰っているだけでも申し訳ないと思うのに、これ以上従姉妹にまで世話になるのは心苦しい。

 それにリリアの父に憧れを抱いていた所為で、伯父よりもリリアの父そっくりに育った快活なユリアと違って、リリアは船も海の男も苦手だ。

 船乗りの娘なのに、グラグラと揺れるあの感覚も、船の上をドシドシと馳け廻る逞しい男性も、好奇心や頼り甲斐よりも恐ろしさの方が勝ってしまって、どうしても好きになれない。


 この先二人に世話にならずに暮らしていこうと思ったら、リリアにはやはりメイドぐらいしか出来る事がないのだ。

 ブランチを食べたら、今日は北の地区まで足を伸ばしてもう少し頑張ってみよう。

 あの辺の地区には、確か貴族以外にも裕福な人達の屋敷が多くあった筈だ。

 台所に立ちながらリリアが少しだけ前向きにそんな事を考えていれば、不意に部屋の外から伯父が大声で怒鳴る声が聞こえてきた。


「帰ってくれ! これ以上私達に関わらないで頂きたい。謝罪ならもう充分受けた。あの子の事はもう放って置いてくれ!!」

「伯父様?」


 悲鳴に近いマルスの怒号を不審に思い、リリアは恐る恐る声のするの方へと顔を出す。

 言い争う様な声を辿り、板張りの廊下を進んでいくと、玄関口でマルスが外にいる誰かと押し問答を繰り返していた。


「いや、しかし、ある程度の説明をしても良いと被害者と公爵からの許可も得ましたし、私としても担当責任者としてリリア嬢ご本人にきちんとした謝罪をさせて頂きたいのです」

「説明なら今ここでして頂きたい。あの子には私から話して聞かせます。謝罪をすれば貴方方の心は軽くなるのかも知れないが、貴方方があの子に会えばあの子の傷を広げる事にしかならない! 本当にあの子の為を思うならどうかーー」

「伯父様? あの、そちらにいらっしゃるのは……っ!」


 恐々とマルスの背中に声をかけたリリアは、マルスの奥にあの時の伯爵、グレン・ジェファーソンが立っているという事に気がつくと、言いかけた言葉を失ってその場で硬直してしまう。

 リリアと目があったグレンは、一瞬ホッとした様に肩を落としたが、リリアがすっかり怯えてしまっている様を目にすると、浮かびかけていたいつもの貼り付けた笑みが強張り、マルスの肩越しで(かげ)ったように見えた。


「リリア……何でもない。気にするな。ほら、今日も面接に行くんだろう? 遅刻をしてしまっては採用して貰えるものも貰えなくなってしまう。こっちの事は伯父さんに任せて、戻ってちゃんとご飯を食べて行っておいで」

「でも……」


 マルスの言葉に戸惑うリリアに、「いいから」と、マルスはリリアにグレンが見えない様に立ちふさがって、台所へ戻る様にと背中を押した。

 リリアの姿が再び見えなくなると、今までが嘘の様に動揺した様子で、グレンはマルスに恐る恐る声をかけた。


「あの、面接って、今日はこれから何かご予定が?」

「……あんた方のお陰で、あの子はあの後すぐヘストン伯爵の屋敷から追い出された。可哀想に、あらぬ噂まで立てられて……本当に、もう帰って頂けないだろうか? これ以上良くない噂を立てられてしまえば、あの子は仕事ばかりか嫁の貰い手まで失ってしまう。まだ16になったばかりだと言うのに……説明をというのなら、後日私からそちらに足を運ぼう。今日のところはお引き取り願いたい」

「…………」


 いくらか冷静さを取り戻したマルスが、憔悴した様子でグレンに乞う。

 そこまで深刻な事態に追い詰められていたとは想像もしていなかったグレンは、言葉を発する事もできず、何とか深々とお辞儀だけ返して、心なしか重い足取りでその場を後にした。

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