ナナとリョーコのちょっと一息〜勝利の位置はどこだろう〜
「あら?どうしたのナナちゃん。そんなストーンスライムみたいな顔して。」
「や、やっほーリョーコちゃん。大丈夫、もうちょっとで開くはず...」
「いやだから、ここ以外のトイレ開いてるじゃない。」
「部活の先生がね、メンタルトレーニングのために、入口に一番近いトイレに行くようにしろって。」
「...」
「そ、そんなバカを見るみたいな目で見ないでよ。」
「いや、そんなめちゃくちゃな言いつけを律儀に守っているということに戦慄しているだけよ。気にしないで。」
ガチャッ
「開いたぁー!!」
「ひゃあっ!!なになになに!?」
バタン!!
「い、今のナナちゃんだよね?どうしたんだろ。」
「あらカナコちゃん、奇遇ね。」
「あ、リョーコちゃん。ナナちゃんは何してたの?なんかすごい顔だったけど。」
「メンタルトレーニングですって。一番になるために、入口に一番近いところで用をたすという。」
「へえ~、面白いことやるねえ。」
「考え方はいいんだけど。でもこのやり方、根本的に間違ってるのよね。」
「へ?どうして?」
「入口に一番近いから、そこに行けなんていかにも幼稚じゃないかしら。」
「うーん、私は合ってるように思うけどなあ。」
「たとえばそうね、表彰台でいうと、一位はどこ?」
「あ、真ん中だ...」
「ね。または、優勝って参加したところからは一番遠いところよね?だったら一番奥で、っていう解釈もできる。」
「ふえ~、なるほどね。」
「結局は勝利っていう概念も解釈次第だものね。自分より恐竜の名前が言える子供に、負けたと思う大人なんていないもの。ナナちゃんは例外として。」
「でもでも、今回はきっちり大会で優勝っていう目標が定まってるんでしょ?だったらそこに向かってメンタルを鍛えるのは悪くはないと思うけど。」
「それはそうね...。なにかいい方法はないかしら。」
「そうだ!キョウカさんに聞いてみるのは?あの人はまさしく勝者!って感じでしょ。」
「ああ、あの成績学年トップのうえスポーツ万能、海外留学も経験済みで父親は大物政治家のリア充くそくらえなキョウカさん?」
「若干私怨が混ざってたけど、そう。行ってみようよ。」
「えー私あの人苦手。だって仲良くしましょオーラすごいんだもん。こっちが悪い気がしてくるわ。」
「はいはい御託はいいから。いこー!」
「というわけなの。」
「なるほど。つまりそのメンタルトレーニングが効果があるのか、ないとしたらどうすればいいのか、そういうことですね。」
「さすがキョウカさん!まとめがうまい。」
「まとめサイトでもやってん...ムグ」
「で、どうかな?キョウカさんはどう思う?」
「そうですね。メンタルトレーニングは効果が本当に人それぞれですからね。はっきりこうとは言えないですけど...ただ、そのナナさん?という方には効果が薄いでしょうね。」
「え?なんで?」
「ナナさんは、そのルールを守るために必死になってしまっています。つまりそれ以外のことが見えなくなってしまっているのですね。試合や勝負の時、ある一点だけやある一つの方法で勝つことはまず不可能です。一番を意識するのはいいかもしれませんが、視野が狭まってしまっては元も子もないですね。」
「はー。そーいうのもあるんだ。」
「本気で何かに勝ちたいなら、積み上げてきたものを崩して周りを見ることです。積み上げたものは壁として自分を守ってはくれますが、同時に枷にもなってしまうんですから。」
「そうそう、できればお二人とも、早めに教室に戻ることをお勧めしますよ。」
「「へ?」」
「うふふ」
「って言われたけど、やっぱすごいねキョウカさんは。」
「ねえ...。間接的に聞いただけで、あったこともない人の行動パターンを予測するって。」
「うわー、ナナちゃんおいてかれたって拗ねちゃってるよ。」
「言ってやろうかしら。そんな狭い了見じゃ一番なんてなれないわよって。」
「火に油注いじゃうよ、ダメダメ。」
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