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 月曜日、会議室には登、犬山、蛇沢ら商品企画部の映像商品企画課の面々が集まっていた。

「それでは、テレビの新製品の企画案の発表を始めます」

 プロジェクターで発表資料をスクリーンに映しながら、登は説明を始めた。

「まず結論から言います。薄型テレビの時代は終わりました。これからは厚型テレビの時代です」

「あ、厚型テレビ?」

 会議室がざわめいた。

 蛇沢が登に向かって質問した。

「その厚型テレビというのは何?」

「厚いテレビのことです。昔のブラウン管のテレビを思い浮かべてください。ただしブラウン管ではなく、液晶を使用します」

 登がそう答えると、虎田係長が吼えた。

「そんなテレビが売れるわけないだろう!」

 虎田係長は強面の30代後半の男である。ビジネス書ばかり読んでいるリアリストで、現実的な考え方しか出来ず、想像力に欠けている。商品企画部には向いていない人材だ。

「いいえ、売れます。その根拠は後で説明することにして、まず厚型テレビを製造する場合のメーカー側のメリットを説明します」

「メーカー側のメリット?」

蛇沢がオウム返しした。

 登は説明を続けた。

「厚型テレビを製造する場合、プリント基板に電子部品をはんだ付けする方法は、リフローとフローのどちらかを選ぶことが出来ます」

 虎田係長がまた吼えた。

「何を言ってるんだ。テレビのようなデジタル家電を作るには、リフローが欠かせないだろうが。リフロー抜きで、フローだけで作るなんて聞いたことがない。これだから素人は困るんだ」

「では、どうしてテレビを作るにはリフローが必要なのでしょうか」

「テレビのようなデジタル家電・パソコン・ケータイなどは、内部に入る電子部品のうちコネクタ・ICなどに狭ピッチ・低背型のタイプを使用している。狭ピッチの電子部品は、リフロー以外の方法ではんだ付けすることが出来ない。だからリフローが必要だ」

「では、どうして電子部品に狭ピッチ・低背型のタイプを使用しているのでしょうか」

「製品を小さく、薄く、軽くするためだ」

「では、どうして製品を小さく、薄く、軽くするのでしょうか」

「そうしなければ売れないからだ! モバイルのように持ち運びするものと違って、テレビは小さくしたり軽くしたりする必要性はあまりない。大画面でテレビを見たいという人もいるから、大きいテレビも需要がある。しかし、薄さは重要だ。厚いテレビなんて売れるわけがない」

「では、逆に考えてみましょう。もし厚くても売れるテレビを作ることが出来れば、どうなるでしょうか。その場合はテレビを薄くする必要がないため、電子部品を狭ピッチ・低背型にする必要はありません。狭ピッチでないなら、リフローではなくフローではんだ付けすることが可能になります」

「ぐぬぬ……」

「リフローの問題点として、まず耐熱性が挙げられます。部品やプリント基板に高い耐熱性が必要です。更に、ソリの許容量が小さいことも問題です。部品やプリント基板のソリを小さくしなければなりません。フローなら耐熱性、ソリに対する制限が大きくありませんし、ブリスターも発生しません。リフローよりフローが優れているというわけではありませんが、フローの方が制限が小さいと言えます」

 虎田は反論出来なくなった。登は説明を続けた。

「薄型テレビの場合、はんだ付けの方法はリフローしか選択肢がありませんでした。厚型テレビの場合、QCD(品質、価格、納期)の観点から、リフロー・フローのどちらか適した方を選べば良いのです。これによって、ものづくりの幅が広がります」

 登の説明が一段落したところで、蛇沢が口を挟んだ。

「厚型テレビを製造する場合の、メーカー側のメリットはわかったわ。それでは、厚型テレビが売れる根拠を説明してもらいましょうか」

「はい。厚いテレビは普通に売ろうとしても売れません。そのため、付加価値を付ける必要があります」

「付加価値?」

「その付加価値とは、これです」

 登がキーボードを叩くと、プロジェクターの画面が切り替わった。

「これが付加価値を付けた厚型テレビです」

 そこには、外周が木目模様の分厚いテレビの絵が映し出されていた。

 蛇沢が驚愕しながら言った。

「これは、まさか……」

「そうです。家具調テレビです」

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