「きつねの長靴」
その日はお天気雨だった。急に降り出した雨は陽に照らされてキラリと輝き、建物に叩きつけられた。
雨が上がった。石畳に写るカラフルな傘も消え、もとのレンガ色の道に戻っていた。
僕が店の前に出、ふと足元を見ると…おやおや。
なぜか、黄色い小さな長靴がきれいに揃って佇んでいた。どうも3才くらいの子どものものに見える。
はて、これを履いていた当人は、裸足でどこへ行ったのだろう?また、子どもの長靴が置かれるなど、僕には身に覚えがない。
晴れて暖まった道の感触を確かめるため、脱ぎ捨たのか。はたまたお母さんにだっこされて、するりと脱げてしまったのか。ただ、きちんと揃った姿を見る限り、どちらもピンと来ない。
僕はお天気雨だったのを思い出し、持ち主はきつねの子なんじゃないかと思った。取りにくるかもしれないと、そのまま軒先に置いていたが、数日経っても長靴はきちんとそこに並んでいた。
今、その長靴は店の中で主人を待っている。そして僕も、心待ちにしている。本当にきつねが来るんじゃないかって、ね。