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フォア・ミン 4

 自鳴琴(オルゴール)の力は膨れ上がり、もはやいくつの物語と歌と曲と人々の感情を閉じ込めたのかすら分からなくなった。


 そしてそれにしたがって、自鳴琴(オルゴール)の妖しげな引力は増していくのであった。


 語り部たちに語りつくさせ、物語という物語を全て自鳴琴(オルゴール)に籠め、箱を磨き上げ、美しい螺子につけかえ、紅天鵞絨(べにビロード)をしきつめた。


 そうして螺鈿の宝石箱に作り変えられた自鳴琴(オルゴール)は、ついに西の婦人に売られようとしていた。


 ――まさに、その矢先。



 東国と西国の間に争いが起きた。


 南の王の権力が失墜し、武器商人が横行し、西と東が滅びかけた南を巡って(いさか)いを起こしたのだ。


 はじめはほんの小競り合いだったが、その戦火はあっという間に各地に広がり、商いどころではなくなってしまった。


 東国の王に財産を召し上げられ、いざという時のために西国貨幣に換えておいた金は、東国における価値を失った。


 東国髄一の商人であったフォア・ミンは、見る間に財産を減らし、命からがら東国を抜け出す羽目になってしまったのである。


 それでもフォア・ミンは宝石箱(オルゴール)を手放さなかった。


 それがただ唯一、己が富を回復する手立てだと知っていたのである。


 彼が向かったのは、東から国境でもある霊峰・蓬遠峰(ポンウェンフン)を越えた先――北国だった。


 北の王族は伝統と血筋を何よりも重んじる。


 自分たちは歴史ある民だと言いながら、その実ガラディオや蓬遠峰(ポンウェンフン)の山脈で他国と分けられたその国は、文化の発達が遅く、他国の文化に憧れているというのは、商人たちには有名な話。


 北の王族に、西国の物語という物語を詰め込んだこの宝石箱(オルゴール)を高く買い取ってもらおうという腹であった。


 奇遇にも、北にはフォア・ミンの旧知の友がいた。


 彼に北の貴族を紹介してもらい、北の貴族を相手に手広く商売を始めた。


 フォア・ミンが、いくつもある隠し倉庫にひっそりと隠し持っていた――もちろん、課税と強引な権力者の搾取をまぬがれるためであったが――秘蔵の宝を出し、それを売り始めたのである。


 幸い、他国は戦争の真っ最中。


 軍資金のためよと他国から売られてきて、異国のものは溢れかえったが、質のいいものとなるとなかなかに難しい。


 西にせよ東にせよ、過去の文化遺産をなげうつまでは切羽詰っていないらしい。


 手に入りそうで入らない、異文化をもたらしたフォア・ミンは貴族たちに重用された。


 狭い国な上に単一民族国家。


 更に血統の正統性を重んじるお国柄。


 貴族同士の横のつながりも強かったが、王族とのつながりも強かったのである。


 フォア・ミンの狙い通り、ほどなく彼は王妃とその子どもたちに呼び出されたのであった。

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