フォア・ミン 3
フォア・ミンのまずした事は、自鳴琴の中に何が入っているかの確認だった。
まずは、自分で聞いてみて、正確に理解できる言語がないと知ると、南国と西国の言語の分かる者を雇い、内容を訳させた。
南の民が歌ったと思しき即興歌。
西の吟遊詩人らしき男の語った北の英雄の話。
同じく、南国の絵師と王后の非道の話。
同じ南国の王の、噂話がいくつか。
南の流行歌。
最後に、西国で古くから伝わる子どもの戯れ歌。
内容はこれからいくらでも追加できるにしても、これは西のご婦人方か、あるいは王族の姫君に売るのが妥当であるかも知れないと思う。
つまり、フォア・ミンはこの自鳴琴を物を食べぬ、眠らぬ、好きな時に話させる事ができ、決して話を忘れる事のない吟遊詩人の代わりとして売りつけようと思ったのであった。
貴族のご婦人方や、姫君は、外の世界への興味が人一倍あるが、けれど決してひとりで外に出るような真似はできない。
彼に言わせれば、元来女性というのは噂話の好きなものだ。
一番の好物は恋の物語。
愛憎劇、喜悲劇、そして少しばかりの歴史や王族貴族の物語。
不思議の力の物語。
物語の幅を広く、量を多く。
そうすればその分だけ高く売れる。
フォア・ミンはそう考えたのであった。
そこで、彼ははじめ、西国言語の分かる吟遊詩人をできる限り集めさせた。
最初のうちは、貴族の席でも語るような金と引き換えに語りを売る、多少は高級な吟遊詩人を。
それがなかなか見つからなくなると、民衆の間で語るような吟遊詩人に。
あるいは吟遊詩人でなくとも、物語を語る事のできる語り部を。
時には、子どものために母が語る物語を。
時には、同世代の青年たちが自慢のために語る武勇談を。
かき集めた語り手たちは、まず全員が自鳴琴の語る物語を聞かされ、自鳴琴の中にない物語だけを語らせる。
語りつくして物語を失った語り手は、己が一体どれだけの物語を語ったのかすら分からない。
その物語を失った事すら分からない。
そこにつけこんで、どの語り手にも一話分の金しか払わなかった。
それが地位も技術もない、一般の語り部になると更に酷くなり、語るだけ語らせて、語った話の分だけ金をやるからどの物語を語ったのか言え、と言って報酬も渡さずに屋敷を追い出す始末だった。
語り部たちは物語を失い、語り部を引き継ぐべき者は育たず、子どもは物語を知らず。
気づかぬ間に、語りの世界の荒廃が始まった。
長い長い時間と膨大な金がかかった。
用済みとなればかまわずとも、探して呼び寄せるのに金がかかったのである。
フォア・ミンはこの作業に心血を注いだ。
これが自らの人生の大仕事になると、気づいていた。
けれど、それを引き換えにしてもこれは莫大な利益を産むだろうと踏んでいた。
もちろん、西の王侯貴族へ売る腹積もりである。
しかし、もうひとつ、もしかしたら、と思っている心当たりがあった。
手紙にあった「この自鳴琴の力を悪用する者」である。
フォア・ミンにはどちらでもかまわない。
ただ、それによって利益を得るのが大切だったのである。
そうして物語を集める間に、フォア・ミンは螺子の型を取り、元からついていたものから、装飾的で宝石をちりばめた豪奢なものに変えさせた。
そして、それが傷ついてはならぬと、語り部に語らせる時に螺子を巻くには、今まで通りの螺子を使っていた。
留め金も金を惜しまず、金細工の職人を呼び寄せて作らせた。
少しでも、自鳴琴の価値を上げようとしたのである。