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ミサト・ツユリ 3

「ミサト、あの袋の中身の話なんだけれど、聞いてくれるだろうか」


 セイがそう切り出したのは、喪の明ける前日――結婚の夜の前の日だった。


「もちろんですわ。セイ様」


 ミサトがそう言って、席に着く。


 セイも袋を手にして椅子に腰かけた。


「西国から東国に行くには、ガルシアの街道を通るしかない。ガルシア街道に出るには、一度カラル・ベラルという西国と南国をつなぐ大きな港に出なければいけないんだ」


「……ガルシアの街道、ですか?」


 ミサトが不思議そうに言うのに、あ、とセイは思いつく。


「あぁ、こちらでは砂漠の西街道(シャームア・ダ・シージェドゥ)と呼んでいるのだったっけ……ややこしいね、」


「いえ、砂漠の西街道(シャームア・ダ・シージェドゥ)に出るにはカラル・ベラルの港に出なければいけないのですわね。それで、それがどうしたのですか?」


「ちょうど僕の出航前に酷い嵐が起きて、カラル・ベラルの港に数日滞在しなければならなくなってしまったんだ」


 セイはずっと手を離さなかったくだんの袋を机に置き、包みを解きはじめた。


「カラル・ベラルから半日の所にニイベの町という小さな町があるんだ。僕はこれをそこで拾った」


 現れるのは複雑な螺旋の模様を描いた意匠の印象的な、螺鈿の自鳴琴(オルゴール)


 はっとミサトが息を呑む。


 燈火を受けて煌く螺鈿は、艶を刷いたように妖しげで、吸い込まれそうである。


 はじまりもおわりも見つけられない計算された模様は、芸術というには異質で、神の業というには神聖さに欠けた。


 悪魔のものであると言った方がまだしも納得できる。


 実際、セイはそのようなものに違いないと信じていた。


 しかし、ミサトはそんな事に驚いたのではなかった。


「セイ様。これを、どこで拾われたのですか?」


 厳しい表情で言うミサトを不審に思いつつも、一応答える。


「ニイベの町の海岸だよ。恐らく難破船の乗組員か何かのものだったのだと思う。油紙で幾重にも包まれていたので、濡れずに済んだんだ」


「これは――数年前から行方不明になっていた父上様が全身全霊をかけた、最後の作品です。間違いありません」


「……なんだって?」


 言われた内容が理解できずに、思わずセイが聞き返す。


「この意匠、見覚えがありますわ。どうした訳か行方不明になったきり、占い盤でもその行方が見えませんでしたので、盗まれて壊されてしまったのだろうと思っていたのです」


 言いながら、もう一度ミサトはその自鳴琴(オルゴール)を眺めやる。


 確かに、これは以前の自鳴琴(オルゴール)ではない。


 もはやそれとは異質のものになっている。


 これでは、自鳴琴(オルゴール)を探した占い盤が沈黙を守るのももっともだった。


「――そんな、まさか……これが、お義父さんの最後の作品? 何かの間違いじゃないのか? こんな……」


 セイの言葉に詰まった先は、言われずとも分かった。


 ――こんな、禍々しいものが。


「セイ様。一流の職人は、造った物に魂を込めると申します。こんな山奥で隠遁して暮らしていた父ですもの、いつしか地仙のような力を得ていたのかもしれません。だとすれば、この自鳴琴(オルゴール)がこのように不思議な物になっていても、何の不思議もありませんわ」


 流石に霞を食べて生きていたわけではないが、父がここに来てから生臭物は一切口にしていない。


 身を清め、一心に自鳴琴(オルゴール)と向き合っていたならば、一生に一度はそのような事が起きてもおかしくはなかった。


「それに、セイ様。その自鳴琴(オルゴール)を貸していただけますか?」


「しかし――」


「大丈夫ですわ」


 ミサトの声に促されて、セイは自鳴琴(オルゴール)をミサトの方へ押しやった。


 それにミサトの手が触れる。


 不意に、セイは青い風に吹かれたような心地がした。


「気のせいだろうか、さっきよりも自鳴琴(オルゴール)が美しく見える」


「気のせいではありませんわ。申し上げましたでしょう? 何がそれをそれたらしめているかが違うのです」


 ミサトが涼やかな声で言った。

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