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幻を殺す時

作者: 日向 葵

――――愛は盲信だ――――


この罪は重い。


あなたの目は円い。いつまでも見つめてほしくて、あなたの視界に留まろうと毎日必死でした。

あなたの舌は赤い。うすい唇からのぞかせ、わたしの名前を紡ぐのは今か今かと待ち遠しく思っていました。

あなたの指は細い。小指を絡めて結んだ約束を、どんなに下らなくとも、果たすのが困難であろうと、必ず守ろうといつも心の中で誓ったのは秘密です。

あなたの腕は逞しい。胸に飛び込めばわたしを優しく縛る両腕にいつも安心していました。

あなたの脚は頼りない。内に抱えた弱さや脆さ、寂しい部分を支えるには細すぎるから、よろめくあなたを受け止めるためにずっとわたしが隣りにいるんだと確信していました。


この罪は重い。

赤い花が咲く。


愛していました。本当です。どうか信じてほしい。

愛し愛される日々は、まるで夢のようでした。

それでも、夢のように何もかもが思い通りになるわけではありません。

それを愚かにもわたしはすっかり忘れ、思うような反応を返してくれないあなたを許せなくなっていきました。

他の人間の影があなたの傍にちらつく度に、この胸は激しく痛んだのです。

嫉妬をしていました。他人の相手をするくらいならわたしに構ってほしい。とんだワガママです。


あなたが他の誰かと少しでも親しげな素振りを見せると、無数の棘が突き出た薔薇の茨で心臓をきつく締められる心地でした。

傷は塞がらず、毎日繰り返す嫉妬に手当てなんて到底追いつきません。

血はいつも僅かな疼きと共に姿を見せます。滴る真紅の雫は、いつしか純白の薔薇を血のように紅色に染め上げました。


この罪は重い。

赤い花が咲く。

花びらがわたしにまとわりつく。


その円い目に他の誰かが移るのが嫌だから潰した。

その赤い舌が他の誰かの名前を音にのせるのが嫌だから噛み千切った。

その逞しい両腕が他の誰かに差し出されるのが嫌だから切り刻んだ。

その細い指先が他の誰かと結ばれるのが嫌だからへし折った。

その両脚があなたを他の誰かの元へ向かわせるのが嫌だから切り離した。


この罪は重い。

赤い花が咲く。

花びらがわたしにまとわりつく。

それでもこの手は花を嬲り続ける。

 

後はどこを殺めれば、わたしが愛したあなたに戻る? わたしを愛したあなたに戻る? 

わたしが欲するあなたは、あなたであってあなたではないのです。


この罪は重い。

赤い花が咲く。

花びらがわたしにまとわりつく。

それでもこの手は花を嬲り続ける。

枯れた最期を見届けて。


どこから間違えた? いつから間違えた?


返り血は生温かい。それとは反対に、あなたは冷たい。

それが真実。唯一で、絶対で、不変の。鮮血で塗り潰すことの出来ない、わたしの罪。


この罪は重い。

赤い花が咲く。

花びらがわたしにまとわりつく。

それでもこの手は花を嬲り続ける。

枯れた最期を見届けて。

永遠に失ってしまった。


馬鹿な私。

全てを壊してしまったら、微笑みながら見つめてもらうことも、優しく名前を呼ばれることも、抱き合い体温を分かち合うことも、手を繋ぎ街へ出かけることも、一緒に同じ道をずっと歩むことも不可能なのに。

美しいあなたの四体、肢体、死体。あんまりにも血が溢れ、肉は細かく切断されてしまったので、最早人間の形をしていません。

生きていた頃の面影が、どこにも見当たらない。

後悔が胸を小さく刺す。それも、束の間でした。

わたしの胸に湧き上がった感情は、紛れもなく愛情でした。生前のあなたへと向けた同等の愛を、今でもわたしは蘇らせることが出来ます。いいえ、もしかしたらそれ以上かもしれません。

これでやっと、あなたはわたしのあなたになったのです。待ち望んだ、願い続けたあなたが完成したのです。


この罪は重い。

赤い花が咲く。

花びらがわたしにまとわりつく。

それでもこの手は花を嬲り続ける。

枯れた最期を見届けて。

永遠に失ってしまった。

だけど手に入れた。


思いの丈は、やっと留まることを知りました。


――――愛はもう死んだ――――

愛が死んだら一体何が残るんでしょうね。

個人的にはこの人の場合死体だと思います。

後追いでもしたらおもしろいんじゃないかな。やっぱ動かなきゃイヤ! みたいな。こんだけ体スキスキ言ってますし。


そんなノリで仕上げました。


良ければ感想・評価お願いします。

今後の文芸部活動の参考にさせていただきます。

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