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紫の旋律~短編集~  作者: 蒼夜
これが私のアイシカタ⊿カルス
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3

 シオンと会えなくなってどれくらいたったか。ただ最近は奏でた音に少し元気がないと思いだしたころだ。

 その間にアスカは『軍神の巫女姫』としての冠を正式な儀式において賜っていた。

 そのことも、シオンに伝えていないから、伝えたいのに。そして、シオンさえ良ければ、私との将来のことも、そう悶々として私室に帰るために廊下を歩いているとシオンに与えた部屋の方から声がする。私は、勝手に将来のことも考えて王の私室に近いところに部屋を与えていた。こんなに近くの部屋で生活していても普段はまるで誰もいないかのように静かだというのに…。何事かと思い、自然シオンの部屋の方に足が向く。

 

 そして、目に飛び込んできたシオンの姿は元気とは言い難い。それなのに、懸命に廊下を歩いてどこかに行こうとしている。

 心配になって駆け寄ろうとすると、グッと強く腕を引っ張られる。なんだ、そう思って後ろを振り向けば、アーリアが瞳に涙をためて立っている。

 宰相からアスカの侍女にはこの国の中でも家柄の高いアーリアを選んだと聞いていたこともあって、アスカに何事かあったのかと頭をよぎる。

 

「どうした?」

 

 兄の婚約者であったアーリアも昔は王宮にしょっちゅう出入りしていたものの、兄がいなくなってからは、そう簡単に王宮にこれる筈もなく、今ここでの再会も数年ぶりのモノだった。

 

「やっと、カルスに会えた」

 

 涙を流しながら抱きついてくるアーリアを無理に振り払うことも出来ずに、昔の兄がやっていたのを思い出して頭を撫でる。

 

「あの人は、私を愛していてくれたのよね?」

「ああ、とっても。兄はアーリアのことだけを愛していたよ」

 

 この行動は彼女の茶番。

 シオンに部屋を出て行くように、まるで鬼の様に言いに行った時のこと。

 私がタイミングよく部屋に帰ろうとして、その場面を見てしまったから、急きょ私に抱きついてきた。

 

 兄が亡くなった時のアーリアの荒れようは手がつけられないほどだったと聞いていたので、まだ兄のことをこんなにも思って心を痛めてくれているのか、そう思うとシオンのことを気になりながらも彼女を邪険にすることが出来なかった。

 

 その日から、シオンは私の与えた部屋から姿を消した。

 

 臣からの報告によれば、心労からのストレスで静かなところで療養を取らせると…。

 そして、いくらシオンの居場所を聞こうと誰ひとり私に口を割ってくれるものは居ず、執務の間、手のあいたときに地道に王宮を探すことになった。

 見つけたのは、後宮のもっと奥。優秀な魔法使いによってその場所は隔絶された空間となっている場所であり、父の子どもを宿した母親たちが隔離されていた場所。

 名も付けられなかった秘密の女の園。今は、誰も暮らしていないはずの場所の窓から久方ぶりに見たシオンの姿があった。

 見ているのに、彼女は私に気付かなかった。ただ、一点を見つめたまま、ぶつぶつと口だけ動いて何か言っているだけ。

 最後に見た時より頬がこけて、色も青白い。それに気付いた時、一つしかない入口に向かって走った。

 

 ここにいたから、誰に聞いても彼女の居場所を突き止められなかったのか。知っていなければ、認知できない様になっていると昔父に聞いたことがあった。そして、この場所を知っているのは、一部の人間だけだということも…。

 

 彼女の居る場所に行くのに、扉の前に鍵がかかっていた。周りを見渡しても、鍵らしきものは見当たらなかった。

 ただ、一つ剣が置いてあり、それを使い、鍵を壊す。

 こういうときに、魔法が使えたら楽なのに。身体に渦巻くのは魔力だけ。これをいったいいつになったら使えるようになるんだか。

 壊れた鍵をはずして、彼女の居る部屋に駆け込むと、シオンは先ほどと変わらない場所にいた。

 扉が開いたことには気付いたようで、こちらを向いたはずなのに、まるで知らない人が入って来たように身体を一瞬震わせる。

 近づいて極力怯えさせない様にシオンの名を呼ぶと、彼女から返って来たのは、『おうさま』と、まるで今までのことを忘れたように無機質に音が紡がれた。

 

 いつも私を呼ぶ時は『カルス』と呼んでくれたのに…。

 

 頬に触れれば本当に体温があるのだろうかと思うほどに冷たい。

 もう一度私の名前をシオンに教える。


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