覚悟
朝の城内は、いつもと同じようでどこか違っていた。
廊下を歩くだけで視線を感じる。
ためらいながら話す声が、完全には隠しきれずに耳に入ってくる。
――昨夜の件はもう広まっているらしい。
騎士団が動き、客人が拘束され、毒の可能性がある小瓶が押収された。
その中心にいたのは、俺とリリカである。
噂になるには十分すぎた。
領主夫妻が待つ応接間へ向かう途中、数人の騎士や使用人に会釈された。
敬愛する領主一家を守り切った者として、認められたのだろう。
普段よりも敬意が感じられる朝だった。
◇
応接間に入ると、ガルド卿とセレスティア夫人が並んで座っていた。
この光景もよく見慣れたものだ。
それだけ、俺がこの城に馴染んできたのだと思う。
「フィン、昨日は十分に休めたか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか。昨夜はよく働いてくれたからな。しっかりと身体を休められたようで良かった」
一拍置いてから、ガルド卿は続ける。
「さて、本題に入る前に、まずはラグスについての報告だ。奴が持ち込んでいた瓶の中身は毒で確定した。討伐した魔物からも、同じ毒が検出されている。領境の件への関与が明らかになった以上、相応の罰は下るだろう。リリカに手を出そうとした件だけでも重罪だが、領境の件も含めれば死罪は免れん。我々の前に姿を現すことはもうないだろう」
かつての仲間とはいえ、リリカに手を出そうとしたことは許せない。
厳罰に処して欲しいと思う。
「では本題に入る。君とリリカの関係が城内でも噂になっているようだ。今後について、ハッキリさせるべきだと思わないか?」
「……はい。その通りです」
努めて冷静に、次の言葉を待つ。
「次期領主候補として、グランフォードに尽くす気はあるか?」
「それは……」
「領主の補佐官のポストが空いている。君にこそふさわしいと、セレスティアと話し合った」
胸が熱くなる……。
ガルド卿の眼差しは厳しくも優しい。
「リリカ様を愛すると決めたときから、覚悟はできていました。光栄に思います。是非、引き受けさせてください」
ガルド卿が頷く。
セレスティアは冷静に、俺の意思を確認した。
「グランフォードに人生を捧げれば、華やかな王都へ戻ることはないでしょう。それでも後悔はありませんか?」
「ありません。私にはリリカ様がいれば十分です」
夫妻は顔を見合わせる。
そして、笑みを作った。
「そうか。よくぞ言い切った」
「あなたの境遇は聞いています。ですが、臆することはありません。あなたを支えようとする者は大勢います」
自然に背筋が伸びる。
責任ある立場を、彼女と歩んでいきたい。
(……君にも聞いてほしいな)
今すぐリリカに会いたいと思った。
この覚悟を彼女に伝えたい。
君と共に歩くために、人生を捧げさせて欲しいと――




