怒り※ラグス視点
――納得がいかなかった。
なぜ、どいつもこいつもあいつを評価するんだ。
俺が真実を語る度に、あいつらはフィンを庇い、持ち上げた。
「ちくしょう。頭悪すぎだろ」
せっかく、俺が本当のことを教えてやってるのに!
薄暗い部屋の中、壁に掛けた剣に視線をやる。
これで、今までどれだけの魔物を斬ってきたと思う。
本物は俺なのに、偽物の方が評価されるなんて狂ってる。
あんな口先だけのペテン師野郎が……!
結界の解析ができる?
そんなもの、それっぽい数値を提出して改良したフリをすればいいだけだ。
王都に数多いる自称結界師共でも、同じことができる。
俺がそれをやらないのは、実力に裏打ちされた本物だからだ。
「……ふざけやがって」
フィンが剣を振ったか?
命を張ったか?
違うだろう。
あいつはただ後方で結界を張っているだけ。
見えもしないもので理屈を並べるだけの男だ。
それなのに領主一家は――
本来讃えられるべき俺ではなく、フィンを評価した。
あいつはリリカお嬢様まで騙した。
あのレベルの上玉は王都でも見かけない。
柔らかな金色の髪。
透き通るような白い首筋。
まだ少女の面影を残した華奢な肩。
幼さを残した顔立ちなのに、不思議なほど整っている。
細い顎の線、柔らかな頬、淡く色づいた唇。
未完成な美しさ――
だからこそ、目が離せない。
澄んだ瞳は気品に満ちていて、あの目がフィンだけを追っていたことが許せなかった。
俺はロリコンじゃないが、リリカお嬢様は格が違う。彼女を欲しいと思わない男は嘘だ。
「……笑えねえよ」
歯噛みする。
ここまで来るのにどれだけ危険な賭けをしたと思っている。
俺は卓上の小箱を開いた。
中に並ぶのは、黒ずんだ小瓶。
レッドギルドから仕入れたものだ。
正規の流通には絶対に乗らない代物。
「コイツを仕込んだ毒入りの魔物、四体」
高い買い物だった。
家が買えるくらいの蓄えを全て注ぎ込んで用意した舞台だった、
毒入りの弱った魔物とはいえ、領境に放ったことが露見すれば一発で終わりだ。
冒険者生命?
そんなものじゃ済まない。
捕まれば、絞首刑か地下牢で野垂れ死に。
分かっている。理解している。
それでもやった。
なぜか?
晩餐会に出るためだ。
功績を作り、領主に顔を売り、ヴァルグリム家と繋がるため。
そこまでして手に入れた席だった。
なのに――
「……フィンごときが」
思い出すだけでこめかみが熱くなる。
あの晩餐会で、何を見せつけられた?
領主夫妻の態度。
リリカの隠しきれない好意。
誰も彼もが、あいつだけを評価している。
俺はフィンの嘘を断罪し、皆の目を覚まさせてやろうとした。これは紛れもなく善意だ。正しい行いをしたはずだった。
なのに――場が冷えただけだった。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
結局、俺は騒がしい客でしかなかった。
あいつが俺をピエロにして、自分の評価を上げていくところを、まざまざと見せつけられた。
言葉は力を持たない。
「……なら、やり方を変えるしかねぇだろ」
別の勝ち筋を作るしかない。
――既成事実。
リリカの顔が脳裏に浮かぶ。
純粋無垢に育った無防備なお嬢様。
あの美しさを俺が穢す。
思い出すだけで口元が歪む。
「……これは調子に乗ったフィンへの罰だ。俺が可愛がってやるよ」
フィンには明らかに不釣り合いだ。
リリカは、英雄の隣に立つべき女で、彼女にはそれだけの価値がある。
「一晩だ」
低く呟く。
「一晩、関係を持てば終わりだ」
そうなれば領主も無視できない。
どれだけフィンを贔屓していようが、俺がリリカのパートナーに置き換わる。
怒り? 拒絶?
知ったことか。
ここまで来たら、もう後には引けない。
全てを手に入れるか、全てを失うか。
……フィン。
勝負といこうじゃねえか。
俺の方が上だって証明してやるよ。




