城下街デート
城下街は昼下がりの陽気に包まれていた。
石畳の通りには人が行き交い、香辛料の匂いや焼き菓子の甘い香りが混じって漂っている。
露店の呼び声が重なり、どこか浮き立つような空気だった。
「……やっぱり、人が多いね」
隣を歩くリリカが少しだけ声を潜めて言った。
今日は質素な外套に、髪も簡単にまとめている。
「場所を変えるか?」
「大丈夫。フィンが一緒にいるもの」
そう言って、彼女は小さく笑った。
城の中で過ごす時間とは違う。
今だけは、肩書きも立場も関係ない。
ただの男と女として並んで歩く――なんて、あまり意識すると少し落ち着かなくなるな。
通り沿いの果物屋でリリカが足を止めた。
「フィンはどの果物が好き?」
「リンゴが好きだな」
「へえ。なんか分かるかも」
「そうか?」
「うん。格好よくかじってそう」
「アップルパイにする方が好きなんだけどな」
そう言うと、リリカがくすっと笑う。
「フィンって、お菓子も作るんだね」
「今度リリカにご馳走するよ」
「わぁ、楽しみ!」
その言い方があまりに無邪気で、返す言葉を失った。
(……こういうはしゃぎ方、まだ子供なんだよなぁ)
少し歩いた先で、焼き菓子の屋台が目に入る。
リリカが立ち止まり、ちらりとこちらを見る。
「……フィン、食べる?」
「奢られる立場じゃないが」
「じゃあ、半分こ」
迷いなくそう言われてしまう。
紙袋に入った温かい菓子を割り、リリカが先に一口かじる。
そのあと、少し照れたようにこちらに差し出した。
目の前に天使がいる。
守りたい……。
「……ありがとう」
甘さが、思ったより優しい。
家庭でも作れそうな素朴な味だった。
「美味しい?」
「ああ」
「よかった」
それだけで満足そうに笑う。
俺のリリカが可愛すぎる。
通りを外れ、少し静かな路地に入る。
人通りが減った分だけ、距離が近くなった。
気づけばリリカがこちらの袖をつまんでいる。
「迷子にならないようにしないと」
「……俺が?」
「うん。フィンが」
俺はそっと手を取った。
「じゃあ、こっちの方が確実だな。迷子にならないよう見ててくれ」
リリカが一瞬だけ目を見開き、すぐに視線を逸らす。
けれど、手は離さなかった。
歩幅を合わてゆっくり歩く。
何気ない時間なのに、ひどく大切に思える。
「ね、フィン」
「どうした」
「……今日、ありがとう。誘ってくれて嬉しかったよ」
最近、忙しくてリリカのために時間を作れてなかったから、今日は俺から誘ったんだ。
本当は一日ゆっくりデートをしたいが、今は仕事に忙殺されている。
セリアがいなかったら、こうしてデートをすることもできなかった。
「いや、俺の方こそだ」
「え?」
「こういう時間があると、また頑張れる」
リリカが驚いたようにこちらを見て、すぐに頬を赤らめた。
「……ずるい」
「何がだ」
「そんなこと言われたら、もっと一緒にいたくなる」
人混みの向こうで、鐘の音が鳴る。
午後の終わりを告げる合図だ。
「そろそろ戻るか」
「……うん。また来ようね」
「ああ。必ず」
そう答えると、彼女は少し背伸びをして――
そっと俺の胸に額を預けた。
一瞬の沈黙。
すぐに離れたが、リリカの甘い温もりが残る。
「……好きだよ、フィン」
「……俺もだ」
小さな声で交わした愛情は、二人だけの秘密だ。
この幸せを――ずっと守っていきたいと思う。




