満ち足りた夜※リリカ視点
今日はいい一日だった。
ううん、いいなんて言葉じゃ足りないくらい、最良の一日だった。
部屋に戻ってからも、胸の奥がずっとふわふわしている。
つい口元が緩んでしまう。
「……フィン」
お父様がフィンのことを認めてくれた。
それも、はっきりと。
『……認めざるを得ない男だ』
その一言を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。
誇らしくて。
嬉しくて。
自分のことを褒められたわけじゃないのに、泣きそうになった。
だって――
私の好きな人を家族が認めてくれたんだから。
窓辺に腰掛けると、湖の方角が見える。
フィンと並んで歩いた湖畔。
風の音と水のきらめき。
あの時、手を繋いだ。
最初は緊張して、どうしていいか分からなくて。
でも、指が絡んだ瞬間、不思議と安心して。
「……温かい手だった」
思い出すだけで胸がきゅっとする。
頭を撫でられたときは、正直ちょっと悔しかった。
子供扱いされた気がして。
だから、背伸びをして――
頬にキスをした。
あの時の感触。
一瞬の静寂。
驚いたフィンの顔。
思い出しただけで顔が熱くなる。
「リリカ様?」
不意に声をかけられて、びくっと肩が跳ねた。
振り返ると、ネネが呆れた顔で立っている。
「……さっきから、ずっとにやにやしてますけど」
「えっ!? そんなこと……あるかもだけど」
「あります! 絶対にあります!」
ネネは腕を組んで、ため息をついた。
「リリカ様がこんなに浮かれるって、フィンのことですよね。分かりやすすぎです」
「う……」
ネネは少しだけ表情を緩める。
「でも、よかったですね」
「……うん」
素直に頷いた。
私はとても幸せだ。
好きな人がいて。
その人に大切にされていると分かっていて。
お父様も、認めてくれて。
お母様は温かく背中を押してくれる。
胸がいっぱいで、何もかもが輝いて見える。
――この気持ちが恋なんだと思う。
誰かを想うだけで、世界がこんなに輝いて見えるなんて知らなかった。
「早く、また会いたいな……」
毎日フィンの隣にいられたらいいのに。
そんな想いを当たり前に抱いてしまうくらい、私の心は彼で満たされている。
(……フィン。大好きだよ)
彼の名前を甘く囁いて、私は窓辺から湖畔を見つめた。




