認められた夜※リリカ視点
夕食の席は、穏やかな空気に包まれていた。
お父様は無言でナイフを動かしているけれど、眉間の皺がいつもより浅い。
お母様はそんなお父様を横目で見て、静かに微笑んでいた。
「……ふむ」
食事も半ばを過ぎたころ、お父様が不意に口を開いた。
「リリカよ。お前はフィンに惹かれているのか?」
「えっ? それは……慕っていますが」
「そうか……」
一瞬、食卓の空気が止まる。
「フィンには次期領主候補としての教育を受けさせる」
――え?
思わず手が止まった。
「まずは補佐官として経験を積ませるつもりだ。領民の陳情書の対応をさせる」
フォークを持ったまま固まっていると、お母様が「やったわね」と祝福してくれた。
「……フィンは信頼に足る男だと判断した」
「あなた、気に入ったんでしょう? あの子、職人気質だから」
お母様が楽しそうに応じる。
お父様は軽く咳払いをして言葉を続けた。
「成果は十分だ。白夜結界をここまで解析できた者は過去にいない。しかも、ヴァルグリム家に対する忠義がある。何より、お前を愛しているのが伝わってきた」
お父様と視線が合う。
「……フィンなら許せる」
胸がきゅっと締めつけられた。
お父様なりの最大限の評価だ。
お母様がゆっくりとワイングラスを置いた。
「リリカ、聞いたわね?」
「……は、はい」
声が少し震えてしまった。
淑女にあるまじきことだけど、お母様は大目に見てくれた。
「あなたの人を見る目は、間違っていなかったということです」
「……お母様」
「わしはまだ完全に認めた訳ではないからな。努力次第では可能性があると認めたに過ぎん」
お父様はこちらを見ないまま言った。
「ふふ」
お母様が声を殺して笑う。
胸の奥がじんわりと温かい。
二人は私のことをちゃんと考えてくれている。
爵位の釣り合う相手じゃなくて、私が望む相手を優先してくれる。
それが嬉しくて、ちょっと視界が滲んでしまった。
「お父様、お母様、ありがとうございます。私は幸せ者です」
未来のことはまだ分からない。でも。
「フィンと支え合って、しっかりと領地を守れるよう励みます」
「期待しているぞ」
好きな人が家族に認められる――
それが、こんなにも幸せなことだなんて。
私はそっと胸の内で名前を呼ぶ。
フィン。きっと今頃、また無茶をしているんだろうけれど。
そう遠くない未来、私があなたを支えられるようになれば嬉しい。
――そう思える夜だった。




