対話
迷宮の報酬として与えられた別邸に、久しぶりに帰った。
今日は来客があるから、そのためだ。
昼間の中庭は静かだった。
木剣を握り、軽く素振りをしていると、背後から低い声がかかった。
「……その構え、ずいぶん様になっているな」
振り返る。
そこに立っていたのは、ガルド卿だった。
「閣下」
「堅苦しい呼び方は不要だ。今日は領主としてではなく、ただの剣好きの男として来た」
そう言って、ガルド卿は木剣を一本拾い上げた。
「少し相手をしろ」
「……私でよければ」
向かい合う。
ガルド卿の構えは、実戦剣術そのものだった。
合図もなく、踏み込んでくる。
――速い。
それに、技量もある。
自然な動作のなかに攻撃が仕込まれており、攻撃動作に移ったと認識しづらい。
木剣が振り下ろされる。
反射的に受け流す。
乾いた音が中庭に響いた。
数合、打ち合う。
剣の重さが腕に伝わる。
さすがは辺境伯だ。
前線に立ってきた男の剣は違う。
「ほう」
ガルド卿が笑う。
「フロアボスと渡り合ったと聞いたが、ただの結界師ではないな。隠密も君には歯が立たなかったようだ」
今度は横薙ぎ。
受ける。だが、重い……。
今度は俺から踏み込み、打ち込む。
ガルド卿が受けた。
火花は散らないが、木剣同士が鳴る。
「……楽しいな。若かった頃を思い出す」
少し距離を取り、仕切り直す。
「フィン。わしはお前を高く評価している」
木剣を構えたまま、彼は言った。
「迷宮の件、白夜結界の調査。いずれも見事な仕事だった」
「恐縮です」
「だがな」
ガルド卿の目が鋭くなる。
「娘の件に関しては、話が別だ」
――来たか。
木剣が再び振り下ろされる。
受けるが、今までで一番力が重い。
「なぜリリカを選んだ」
剣が激しくぶつかる。
「わしは、父として反対している」
「……当然の反応です」
距離を取る。
ガルドが眉を上げた。
「娘を選んだ理由を聞かせろ」
「ありのままの私を受け入れてくれました。彼女を愛しています」
「お前にリリカを受け入れるだけの器があるのか?」
俺は木剣を握り直す。
「あります」
ガルドが踏み込む。
強烈な一撃。
受けると同時、腕が痺れる。
「娘を諦めろ。何一つ釣り合わない。お前ではリリカを幸せにできない」
「諦めません。リリカは――私が守ります」
ガルド卿の剣が止まる。
静寂。
風が庭の木を揺らす。
「お前は分かっているのか。辺境伯の娘を娶るという意味を……。王都の貴族は辺境というだけで理由もなく見下す。後ろ盾もない平民など、あっさり捻り潰されるぞ」
「実力で黙らせます。私には師から受け継いだ魔術がありますから」
ガルド卿が大きく息を吐いた。
「……馬鹿だな。本当に、わしの若い頃によく似ておる。わしも昔、似たような馬鹿をやった」
「奥方のことですか」
「そうだ。かなり無茶をしてな。妻は実家から離縁され、わしは社交界から締め出された。当時は王子だったが、アーサー王の怒りも買ってな。馬鹿をしたからこそ、お前がこれから辿る茨の道も見える」
ガルド卿は木剣を地面に突き立てた。
「フィン」
「はい」
「これだけは伝えておく」
真っ直ぐ俺を見る。
「娘を泣かせたら――わしが殺す」
「……はい」
自然と笑みが浮かんだ。
「その時は、潔く斬られます」
ガルド卿はしばらく俺を見ていた。
そして、ふっと笑った。
「……面白い男だ」
ガルド卿が背を向ける。
「今日はここまでだ。……守ると言ったからには、守りきれよ」
そう言い残し、彼は中庭を去っていった。




