ガルド卿の苦悩※ガルド視点
フィンが部屋を去ったあとも、私は腕を組んだまま動けずにいた。
机の上には、彼が積み上げた資料が並んでいる。
白夜結界の歪みを見抜き、魔導院の不正を暴き、独自結界の案まで提示した。
――期待に応えてくれる男だ。
今まで、結界師とは名ばかりの詐欺師や、無気力な魔導院の魔術師たちを見てきたが、フィンの技量、仕事への熱意は彼らとは比べるべくもない。
私はフィンを高く評価している。
彼がグランフォードで成し遂げてきた偉業は、目を見張るものがある。
……だからこそ、悩ましい。
なぜ、娘は年の離れたフィンを選んでしまったのだろう。
リリカがあともう一回り成長していたら、二人を受け入れる余地もあった。
しかし、今の二人の関係は、世間一般で受け入れられないものだ。
「あなた」
セレスティアの声で我に返る。
「フィンとリリカのことを考えているのね」
思わず溜息が漏れた。
「わしは、リリカには同世代の者に目を向けてほしかった」
二人が社交界に出たとして、その関係を恋人として見る者はいないだろう。
「お前はフィンを認めるのか?」
「二人は互いを強く思い合っているし、反対したところで、ただ二人の心が私たちから離れていくだけよ。だったら、表面上は認めた上で手綱を握った方が建設的じゃないかしら」
「……セラよ、お前はいつだって正しいことを言うな。わしには割り切れん」
窓の外、夕暮れの光が差し込む。
娘は今、あの男と笑っているのだろうか。
「リヒャルトを呼ぼうと思う。次期領主候補として教育をしながら、リリカと関係を深めてもらう」
「フィンを選ばないのね」
「2人にとっても、これが正しい道のはずだ」
リリカとフィンに心のなかで詫びる。
「あなた、後悔しない?」
「なぜわしが後悔する。大事な娘を守るための決断だ」
「本当にそれだけかしら。過去の自分と今のフィンを重ねていないと言い切れる?」
……分不相応にも王都の侯爵令嬢に恋をして、妻に家を捨てさせてしまった。
そして、私自身も王の怒りを買って社交界から追放処分を受けた。
苦い記憶が蘇る。
――そうだ。
私は、分不相応な恋をするフィンに、知らず知らずのうちに過去の自分を重ねていたのかもしれない。
同じ失敗をして、後悔をして欲しくないと願いながら……。
「これはリリカとフィンの人生よ。あなたの人生ではないの。あの子たちにも、選択をして、その結果を受け入れる権利があると思うわ」
決断をしたと思ったのに、心が揺らぐ。
セレスティアはいつだって正しいことを言う。
「それと、ハッキリ言うけれど、リリカとリヒャルトが笑顔で未来を築くところが想像できないのよ。彼の方が、きっとリリカを幸せにできると思う」
「平民が、一回りも年の違う令嬢を妻にするなど、想像を絶する茨の道だ。彼は若く、才能もある。そんな若者の人生を、娘の恋で狂わせていいのか」
「私は、二人なら乗り越えてくれると思います。あの子たちの支えになりたいとも思うわ」
(……どちらを選んでも茨の道か)
ならば、フィンを信じてみるのもいいかもしれない。
彼はいつだって我々の期待に応えてくれたのだから。
「……リヒャルトを呼ぶのはよそう。代わりに、フィンと話がしたい」




