報告
机の上に資料が並んでいる。
手書きの地図、数値化された魔素循環量など、俺が今日まで積み上げてきたものだ。
「では、調査結果を報告します」
応接間に静かな緊張が走る。
ガルド卿は腕を組んだまま、黙って頷いた。
セレスティア夫人は背筋を伸ばし、こちらをまっすぐに見ている。
「まず、白夜結界の可視化についてです」
地図を一枚前に出す。
「白夜結界は、地脈を基点として領内全域に張り巡らされています」
指先で地図の中央――城と主要街道周辺をなぞる。
「調査の結果、複数箇所に人為的な調整痕が確認されました」
「人為的、とは」
ガルド卿の声は硬い。
「結界の基幹式は触られていません。ですが、循環制御部――魔素の循環率を決める部分に、後から手が加えられています」
「点検を装った改変、ということですね?」
セレスティア夫人が淡々とした口調で確認する。
「はい。正規の保守作業に見せかけて、循環比率のみを書き換えています。痕跡から見て、熟練した術師の仕事です。魔導院の術師が手を加えたと見て間違いありません」
二人が考えを整理するため、少しだけ間を置いた。
「結論から言います。グランフォード領の白夜結界は、正常に機能していません」
空気が重く沈んだ。
「白夜結界は本来、ろ過装置です。魔素を循環させ、濁りを取り除き、魔物の発生を抑える」
資料の一枚を裏返す。
「しかし、結界全体で循環できる魔素量には上限があります。それを王都・近郊・辺境で分配している」
指先が王都側の数値を示す。
「王都周辺では、循環量が異常なほど引き上げられています」
「……だから魔物が出ない。新たに迷宮も出現しない。その代償として、辺境の循環量が削られている。なるほど、我々は長年謀られていたということか」
俺は静かに頷く。
ガルド卿は何も言わない。
ただ、拳を強く握っている。
「以上が、調査の概要です。制限を解除し、循環を均等化する方法も把握しています。ただし――それを実行すれば、王都側の循環率は確実に低下します」
「……なるほど」
ガルド卿が低く呟いた。
「首謀者が、必ず気づくと」
「はい。白夜結界を成果として利用している者――ドラクシス・ヴァルディーンが必ず気づくでしょう」
「報告ご苦労」
全ての報告を終えた俺は、一礼して下がろうとした。
だが、そこで声が掛かった。
「……フィンよ。結界師として、素晴らしい仕事ぶりだったぞ」
「ありがとうございます」
セレスティア夫人が静かに目を細めている。
それは、夫の成長を肯定する合図のように見えた。
――この二人がいれば、領地は大丈夫だろう。
「そういえば、グランフォード独自の結界構築についても案を考えてみました。陛下の許可が下りるか分かりませんが、技術的には可能だと思います」
「何!? それは本当か!」
「ただし、白夜結界か独自結界かの二択になります。地脈に負荷をかければ事故に繋がりますし」
「そうか。しかし、検討は進めてくれ」
食い気味なガルド卿に驚いた。
「この優秀な男を一カ月も厨房に置いていたとは。わしが軽率だった。すまない」
「いえ、私は気にしていませんので」
「そうか。その……これからもよろしく頼む」
夫人が堪え切れずに小さく笑った。
「……ふふ。夫なりに感謝しているようです」
「結界師を信用した訳ではない。だが、フィンは特別だ」
悪い気はしなかった。
結界師としての俺自身が、ついに認められたんだ。
――次は、白夜結界に頼らない独自結界か。
少しは二人に認めてもらえたこと。
リリカに報告したいな……。




