離脱※ラグス視点
セリアがパーティを抜けると言い出し、荷物を手早くまとめた。
革袋ひとつ。
あとは、予備の魔導具と使い慣れた杖だけ。
あっさり彼女の身支度は整った。
「……それだけかよ」
思わず口をついた俺の言葉に、セリアは淡白に応じた。
「十分よ。ここに置いていくものの方が多いから」
宿の一室。
つい最近まで、当たり前のように四人で集まっていた場所だ。
ロガンは壁際で腕を組み、ミルトは落ち着かない様子で視線を泳がせている。
誰も、彼女を止める言葉を持っていなかった。
「で?」
俺は鼻で笑った。
「結局、あいつのところに行くってわけか。フィンのところに」
「そうね」
否定しない。
そのことが腹立たしかった。
「あいつに惚れたのか?」
挑発するように言うと、ようやく彼女は俺を見た。
怒るか、あるいは照れるか。
予想に反し、返ってきたのは静かな声だった。
「分からないわ。でも――」
セリアは少し考えるように視線を落とし、それから言った。
「ただ、傍で力になれればいいと思ったの。こんな気持ちにさせられたの、初めて」
「は?」
思わず間の抜けた声が出た。
何で、フィンなんかに落されてるんだよ……。
あんな、無意味な結界しか張れない男に。
「傍で支えたいの。助手としてでもいいから……」
はっきりとそう言った。
「なあ、俺たちはどうなるんだよ。フィンをパーティに呼び戻して、もう一度再出発する予定じゃなかったのか?」
「フィンはもう前を向いて歩いてる。だから、私たちも前に進むべきなのよ」
「ふざけんな! グランフォードに来るのにどれだけ苦労したと思ってる! ここに来てからも、お前がフィンに拘るから王都に帰らず耐えてきたんだろうが!」
「巻き込んでごめんなさい。謝るわ」
憑き物が落ちたように穏やかなセリアは、今まで以上にいい女に見えた。
それが、手の届かないところに――フィンなんかの所に行こうとしている。
止めたいのに、俺には切れるカードがない。
ロガンが低く唸る。
「……フィンは、もう俺たちの手の届く場所にいない。それが答えのようだ」
「あの人が受け持ってる仕事は、もう冒険者なんかが関われる仕事の比じゃない。嫉妬することすら馬鹿馬鹿しいですよ」
「お前ら、大げさなんだって」
三人の視線が集まる。
「あいつ、領主の娘と仲が良いって噂があるの知ってたか? 結局のところ、あいつが成り上がれたのは自分の力じゃない。昔から他力本願だったろ? 今もそうなんだよ」
どいつもこいつもフィンのトリックに引っ掛かりやがって。情けねえ。
「どうせ王都での冒険を脚色して、領主の娘を誑かしたんだ。結局、お嬢様のお気に入りってだけなんだよ、あいつは。実力でのし上がったわけじゃねえ。俺たちとは違うんだ。元々、俺もあいつを可愛がってやってたしよ。そういう才能だけはあるんじゃね?」
言葉が止まらなかった。
「見てろよ。今度は俺がリリカお嬢様を落としてやる。そして、俺がヴァルグリム家をバックにつける。そうしたら、また返り咲けるんだ。王都の結界がおかしくなるまで、俺たちはてっぺんにいた。実力は俺たちの方があるんだよ! なあ、セリアも考え直せ! もう一度、栄光を掴もう! 今度こそ、この四人で……!」
きっと俺の想いは届く。
皆の目を見る。
しかし、帰ってきた反応は予想に反したものだった。
「……やめろ」
ロガンが低く言った。
「本気で言ってるなら、取り返しがつかないことになる。下手をすれば……いや、確実に辺境伯を敵に回す。お前はその器じゃない」
「なに日和ってんだよ。冒険者だろ!? 勝負しねえで何が冒険者だよ!」
「あたしは行くわ。皆、今までありがとう」
セリアが扉に手をかける。
「いくなよ! まだ俺の話は終わってねえ! セリア、俺が必ずお前を幸せにしてやる!」
扉が閉まる。
残されたのは、重たい沈黙だけだった。
「もう終わりかもしれませんね」
「そうだな。俺たちはフィンを追い出した時点で終わっていたのかもしれん。つくづく惜しい男を追放したものだ。あの夜に戻れるなら……」
「僕も同じ気持ちですよ。戻りたいなぁ。フィンさんがいた頃に。賢い奴になった気でいましたけど、揃いも揃って僕ら馬鹿でしたね」
――違う。
まだ終わってない。
フィンにあって俺にないもの。
それは、リリカお嬢様からの寵愛だ。
偽物のフィンが評価されたなら、本物の俺に会えばリリカの世界は変わる。
俺こそが、王都で本物の英雄譚を切り開いてきた冒険者だ。
あんな、何の価値もない結界師とは違う。
「……そうだ。暴いてやる。偽物が」
待ってろ。俺こそが本物だ。
あいつの嘘を全て暴く――




