依頼
城の応接間は、謁見の間ほど堅苦しくはなかった。
それでも、重厚な石壁と落ち着いた調度品が、ここが領主の居城であることを思い起こさせる。
正面の席に座るのは、ガルド辺境伯。
その隣には、セレスティア夫人が静かに腰掛けていた。
俺は一礼する。
「……座れ」
短い命令だった。
椅子に腰を下ろすと、ガルド卿は腕を組み、じっとこちらを見据えてくる。
「さて、結界師。この間の件は――」
被せるように、セレスティア夫人が口を開いた。
「あなた、まずは突然呼び立てた非礼を詫びるべきです。フィン、突然の非礼を夫に代わって詫びます」
「ううむ……。フィンよ、突然呼び出したことを詫びよう」
不承不承といった様子だが、あのガルド卿が人に頭を下げるなんてな。
「いえ、庇護を受けた者として当然のことです」
「よい心掛けだな。さて、そなたは迷宮制圧における最大の功労者だった。わしの対応には不適切な部分があったな」
「むしろ不適切な部分しかなかったでしょう」
澄ました夫人の一言に、ガルド卿がたじろいでいる。
「……セレスティア」
「事実です」
その一言で、ガルド卿の言葉が喉に詰まったのが分かった。
「……こほん」
辺境伯は咳払いを一つして、改めて俺に向き直る。
「フィン。改めて礼を言おう。グランフォードの迷宮を制圧し、領民を救った功績、確かに認めている」
「光栄です」
俺は内心で思う。
この人、完全に尻に敷かれてるな。
「わしはそなたの実力を認めた。そこでだ、フィン。ヴァルグリム家に正式に仕える気はないか?」
「私が……ですか?」
「うむ。認めたくな――こほん。認めるしかないことだが、お前程の結界師はなかなかいない。結界師を名乗る者のなかで、正当に実力が評価できる者が何人いるかわしには分からぬ」
詐欺師も多い……というか、詐欺師が大半の業界だからな。
金だけ取って口先だけで仕事をしてる連中もいる。
俺はそんなリスクの高い方法で儲けようとは思わないが。
「私に何をさせようと?」
「領内の白夜結界の調査だ。なぜ、王都に比べて結界が弱まっているのか。原因を探って欲しい」
多分、話を聞いても眉一つ動かさなかったと思う。
それは、俺も内心で着手すべき問題だと考えていたからだ。
「勝手ながら、あなたの経歴については調べさせていただきました。ラグスパーティに所属する以前の動向についても……。結界術の権威、エルンスト・ハイデンから教えを受けたそうですね」
「昔の話です。それに、先生は俺の修行を途中で投げ出しました。不肖の弟子ですよ」
「彼は投げ出したのではなく、自身が不要だと考えたから身を引いたのでは?」
恐ろしい洞察力だ。この人に誤魔化しは効かないと覚えておこう。
「もちろん、無償でとは言わん。欲しいものがあればこの場で言うがいい」
「それは、いずれいただく形にしてもよろしいでしょうか?」
「娘を寄こせなどと言わなければな」
「では、保留とさせていただきます」
「貴様……」
身を乗り出して睨まれるが、夫人が袖を引くとガルド卿は引き下がった。
「依頼を受けるのか答えよ」
「引き受けます」
「……うむ。では頼んだぞ」
不承不承という形で、ガルド卿は一言添えた。
夫人が同席するだけで、ここまで対応が変わるとはな。
しかし、ようやくリリカとの約束が果たせそうだ。
……必ず原因を突き止めよう。




