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無能と追放された結界師、辺境伯の娘に拾われて年の差婚する  作者: かにょん


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湖畔にて

 湖畔は静かだった。

 風に揺れる水面がきらきらと光を反射し、遠くで鳥の鳴き声がする。


「いいところだな」

「フィンがここを選ぶの意外だった」


 並んで歩きながら、リリカがちらりとこちらを見る。


「人目が多いと落ち着かないんだろ?」

「……うん」


 素直な返事だった。

 少し時間が流れたあと、俺は立ち止まる。


「なあ、リリカ」

「なに?」


 差し出した手を見て、彼女が目を丸くした。


「……手、繋ぐか」

「えっ」


 一瞬固まったあと、みるみるうちに頬が赤くなる。


「そ、それは……その……」

「嫌ならいい」

「い、嫌じゃない!」


 慌てて手を取られる。

 小さくて少し冷たい手だった。


 歩き出すと、指先がぎこちなく絡む。

 しばらくすると力が抜けて自然になった。


「……変な感じ」

「そうか?」

「うん。でも……嫌じゃない」


 歩きながら、他愛もない話をした。

 城の話、料理の話、ネネのこと、最近読んだ本のこと。


 気づけば笑い声が増えていた。


「フィンは、王都に気になる人とかいなかったの?」

「そんな暇なかったな。ずっと働いてたし」

「そうなんだ?」

「そういうリリカはどうなんだ?」


 尋ねるとリリカは俯いた。


「私の相手はお父様が決めるから……」


(藪蛇だったかな……)


「でもね、お母様は私が好きな人と結婚するのがいいって、言ってくれたの」

「理解があるんだな」

「うん。お母様がね、フィンのこと褒めてたよ」

「え? そうなのか?」

「美味しいご飯を広めたり、私たちの危機を救ってくれたり……」


 ふと、リリカの足取りが軽くなっているのに気づく。


「楽しいか?」

「……楽しい。やっぱりフィンと話すのが一番好き」


 嬉しそうに言う。

 その仕草があまりに子供らしくて、つい――


 空いている方の手で頭に触れてしまった。


「――あ」


 撫でる。

 柔らかい髪。思ったより細い肩。


 撫でてから「しまった」と思った。


 リリカが立ち止まる。

 手は離されないまま。

 だが、表情は不満げだ。


「……少しは私の気持ち、通じてるって思ってたのに。子供扱いするんだ?」

「違う、そういう意味じゃ――」

「分かってる。でも……嫌なの」


 ぐっと手を引かれる。


「私、子供じゃない」

「リリカ――」


 名前を呼ぶより先に、彼女が背伸びをした。


 一瞬、視界が近づいて――

 柔らかな感触が頬に触れる。


 ちゅ。


 短くて、震えるようなキス。

 離れた瞬間、リリカの表情が崩れた。


「……っ」


 ぽろりと涙が落ちる。

 あまりの出来事に思考が追いつかない。


 頬へのキスと、リリカの涙。


「な、なんで泣くんだ」

「だって……」


 リリカは唇を噛みしめ、声を震わせる。


「……フィンが、ちゃんと女の子として見てくれないから」


 涙を拭おうとしてうまくいかない。

 子供とか女とか関係なく、俺をこんなに慌てさせるのはリリカだけだと思う。


「子供じゃないって、証明したかった。でも、フィンを困らせただけだった」


 泣きじゃくる彼女を見て、胸が痛んだ。

 俺はそっと肩に手を置く。


「ちゃんと分かってる。リリカが俺を意識してくれてることは」

「……ほんと?」

「ああ」


 軽く抱き寄せて、落ち着かせるように肩を抱く。


「焦らなくていい。リリカはリリカのペースで大人になればいい」

「……ずるい」


 そう言いながら、リリカは泣き止んでいた。

 湖畔に夕暮れの光が落ちる。


 光がリリカの泣き顔を照らして、綺麗だと思った。


「……というかだな。俺は平民だし、俺の方がリリカに追いつかないといけない。だから、むしろ待っていてくれないか」

「ふふっ」


 リリカが俺の胸におでこをくっつけた。


「私のこと、意識してくれるの?」

「……ずっとしてたさ」

「勇気出してよかった。私の気持ち、通じてたんだ」


 鈍感な俺でもな。

 リリカくらい素直だと伝わってくる気持ちがある。


 そして、だからこそ大事にしたいと思う。

 リリカの純粋な気持ちを穢して、傷つけるようなことはしたくない。


「フィンってけっこう甘やかす派?」

「なんでそう思う」

「私が泣いたとき、焦ってた」


 はぁ、と俺は肩を落とした。


「リリカに泣かれたら困る。……他の男の前で泣いてほしくないけど」

「じゃあ、泣きたくなったらフィンに甘やかしてもらうね」

「ああ。俺のところにこい」


 リリカの頭を撫でた。

 今度はグリグリと頭を押しつけられる。


(……可愛い)


 しかし、女心って難しいな。

 許しを得たので、俺はしばらくリリカの頭を撫でていた。

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