辺境に至る道
翌朝、目が覚めると頭の芯が痛んだ。
酒のせいじゃない。
昨夜の言葉がまだ脳裏に残っているんだ。
『数値に出ねえ仕事はいらねえんだよ』
何度も反芻してため息をつく。
否定できなかったのが一番こたえた。
自分の仕事に誇りも手応えもなく、寄生虫と言われてそのとおりだと思った。
未練がましく居座った結果が昨夜の追放劇だ。
悔しさはあったが、心のどこかでは当然だとも受け取っていた。
ストレスで頭痛がするが、半ば自業自得だ。
あんな追い出され方をする前に自分で見切りをつけるべきだった。
宿の荷物をまとめるのに、時間はかからなかった。
冒険者としての私物は最低限だ。
護身用の短剣、防具、その他諸々が入った革袋。
結界師の装備は、どうしても地味になる。
一人になった自分は周りからどう見られるのだろう。
ボンヤリとそんなことを思った。
それから、仮宿にしていた住処を出ると昼を回っていた。
ギルドへ向かう道すがら、王都の街並みを眺める。
沈んでいるのは自分だけで、通りはいつもと変わらず賑やかだ。
人々は活気に満ち、露店の呼び声が飛び交う。
迷ったが、気がつけば足はギルドの方へ向かっていた。
ギルドの扉を押し開けると、見慣れた職員がこちらに気づいて少し困ったような顔をした。
その表情だけで、このあとの流れが読めてしまった。
「あ……フィンさん」
「新しいパーティを探したくて、と言いにきたつもりでしたが、やめました。俺が入れるようなパーティはないんですね」
職員は一瞬、言葉に詰まった。
そのまま視線が泳ぐ。
そして、申し訳なさそうに口を開いた。
「残念ですが……王都周辺では難しいかと。白夜結界の影響が強すぎますから」
白夜結界。
それは、この国全体を覆う巨大な防衛結界だ。
古の大賢者が一人で築いた、魔物を弱体化させる結界である。
「王都のパーティは火力と盾役を求めています。結界師を迎え入れる余裕はないかと……。力になれず申し訳ありません」
「いえ」
首を横に振る。
「元々、ラグスの口添えで置いてもらってただけですから」
それは紛れもない事実だった。
結界師として評価された覚えは全くない。
「あ、そういえば……。広場の方で入植者を募集しているのはご存じですか?」
「入植者?」
「グランフォードのガルド卿が人手を集めているそうです。向こうは魔物が活発ですし、元冒険者と言えば仕事がもらえるかもしれません」
脳裏に浮かんだのは、荒れた土地と危険な魔物。
普通なら避ける話だ。
「ちなみに、そこに冒険者ギルドは?」
「ありませんね」
職員は苦笑した。
……なるほど。
もう完全に冒険者ギルドではお払い箱だと。
「……今までお世話になりました」
ギルドを出ると、王都の広場が見えた。
人だかりの中心でひときわ目立つ少女がいる。
金色の髪、整った顔立ち。
小柄で華奢な少女は人目を引いていた。
しかし、行き先が辺境だと聞いて、雑踏を行き交う人々は耳を傾けず無視している。
それでも、その少女は一生懸命声を張り上げていた。
「――グランフォード領では、入植者を募集しています! 危険は多いですが、働く場所と住む場所は保証します!」
正直な言い方だった。
甘い誘い文句ではない。
その声を聞きながら、俺は一歩を踏み出す。
「……俺も参加していいですか?」
少女が驚いたようにこちらを見る。
「拾ってもらえるなら、荷物持ちでも何でもします」
一瞬の沈黙。
彼女は小さく目を見開いてから、笑った。
「――歓迎します! 私はリリカ、あなたの名前は何ですか?」
「フィンです。何の肩書もないただのフィンです」
「じゃあ、ただのフィンさん。よろしくお願いします」
笑顔が可憐な少女だなと思った。




