褒美
謁見の間を出たあと、俺はリリカと二人きりになった。
「……フィン、少しだけ時間ある?」
広間のざわめきから離れた回廊。
石壁に囲まれた静かな場所で、彼女は立ち止まる。
「迷宮に行く前、約束したでしょ。ちゃんと覚えてる?」
リリカの頬が分かりやすく赤くなった。
「……フィンが無事に戻ってきたら、デートしなきゃって……。迷宮を無事に終わらせたご褒美。功績に対する、正式な……えっと……」
言いながら、声が小さくなる。
「……私からの」
一瞬、沈黙が落ちた。
「それなら」
俺は素直に答える。
「ありがたく受け取らせてもらう」
「……ほんと?」
恐る恐る、こちらを見る。
その表情は、領主の娘というより年相応の少女だった。
「リリカとの約束に勇気づけられたんだ。そういえば、あのお守り、クラウスたちにはリリカがくれたってバレたけど許してくれるか?」
「え!?」
先程まで喜んでいたリリカが、険しい表情になっている。
「皆、私が生まれたときからお世話になってる騎士じゃない。よりによって……うぅ。恥ずかしい」
あんまり恥ずかしがってるから、笑ってしまった。
「なに笑ってるの~!」
掴みかかってくるリリカに苦笑する。
「いや、ごめんな。子供っぽいリリカが可愛くて」
「何よそれ。フィンが私を辱めるのが悪いんだからね!」
「……そういうことは大声で言うなよ」
「どうして?」
子供っぽい純真な疑問が胸に刺さる。
墓穴を掘ったと思い、話題を逸らした。
「とにかく、約束だからな。デートは週末でいいか?」
「いいよ。あと、デートコースはフィンが決めてね?」
「俺? 全然詳しくないぞ」
「こういうときは殿方が決めるものよ?」
無邪気に期待しないでほしい。
恋人いない歴=人生の俺に何を期待してるんだこの娘は……。
「まあ考えとくよ。じゃあ週末、逃げないでくれな」
「逃げないわ。私が言い出したんだもの」
少し胸を張って言うが、耳まで赤い。
「あのね、フィン……」
リリカが少しだけ距離を詰めてきた。
袖が、軽く触れる程度。
それだけなのに、不思議と心臓がうるさくなる。
一回り近い年の差があるんだ。
俺は大人で、彼女はまだ子供である。
なのに、リリカから目が離せない。
「私、今日……すごく嬉しかったんだよ?」
小さな声だった。
「皆が、あなたのことを認めてくれて」
「……ああ」
「じゃあ、またね。あっ……」
「ん?」
「厨房はいいの?」
「さすがにクビになったよ。英雄に下働きはさせられないって。今まで散々こき使ってた癖にな」
そう言うと、リリカはくすっと笑った。
その笑顔を見て、思う。
――リリカといると心が休まるな。
大切な少女との週末を、どう過ごそうか。
ただ純粋に、彼女の笑顔が見たいと思った。




