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無能と追放された結界師、辺境伯の娘に拾われて年の差婚する  作者: かにょん


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18/45

英雄の扱い

 迷宮攻略から戻った翌日、グランフォードは異様な熱気に包まれていた。

 城下では、兵士だけでなく商人や農民、子供たちまでもが口々に同じ名を囁いている。


「聞いたか? 結界師が迷宮を攻略したって」

「魔物がまるで紙みたいに斬れたってさ」

「騎士団が誰一人死ななかったんだろ?」


 噂は尾ひれをつけながらも、核心だけは外していなかった。


 ――結界師フィン。


 迷宮を制圧し、スタンビートの芽を摘み、誰一人欠けさせなかった男。

 その当人である俺は、城の広間に立っていた。



 ◇



 謁見の間には、ガルド卿を中心に重臣と騎士団の上層が並んでいる。


 そして俺の前にはクラウス、ハインツ、レオンの三人。

 全員、傷は癒えているが、迷宮の空気をまだ纏っているように見えた。


「此度の迷宮攻略、よくやったな。特に騎士団長クラウス。お前の指揮は見事だった」

「恐れ入ります」

「ハインツ、レオン。双璧の名に恥じぬ働きだったと聞いているぞ」


 二人が静かに頭を下げる。


「……結界師フィン。結果として貴様の結界は有効に働いたようだ。これからも精進するように」


 広間の空気がわずかに張りつめた。


「お前たちには褒賞を与える」


 ガルド卿が合図をすると、文官が前に出た。


「クラウスには金貨150枚。ハインツ、レオンには金貨100枚」


 どよめきが起こる。

 領地を救ったのだから当然だが、破格の報酬だ。


 そして――


「結界師フィンには、金貨30枚を与える」


 一瞬、時が止まった。

 空気が凍りつくのが分かった。


 俺は何も言わない。

 3人よりは少ないが、グランフォードに来たばかりの頃だったら、金貨30枚も貰えなかったはずだ。


 ガルド卿から、少しは認められているのだと思う。それが、同じ戦場に立った者より評価が低いだけで。 


「閣下」


 最初に声を上げたのはクラウスだった。


「冗談のつもりですか」

「何?」

「この戦果を出せた理由は、誰の目にも明らかです。迷宮を死傷者なく制圧できたのは、フィンの結界があったからではありませんか?」

「結界師にしてはよくやったと報告を受けている。だが、前線を支えたのはお前たち3人であろう」

「フィンは結界師としてだけではなく、剣士としても戦いました」

「知っている。無理をして負傷したそうだな」


 クラウスの怒気が一層膨れ上がった。

 だが、言葉を引き継いだのはレオンだった。


「俺たちは、フィンがいなければ死んでいた。こいつは馬鹿じゃない。前に出なきゃいけないタイミングで、前に出たんだ。結界を張りながら、命懸けでフロアボスの体力を削ってくれた。見てもない奴がフィンを侮辱するな。報告書くらいまともに読め」

「ま、同意見だわな。これは正当な評価じゃありませんよ」


 広間がざわつく。

 事態は収拾がつかない方向に転がっている。


「フィンの評価を変える気がないのであれば、私は褒賞の受け取りを辞退します。英雄を軽んじる褒賞など受け取れません」

「私たちは、の間違いですよ」


 ハインツが続けて賛同し、レオンが首肯する。


「どいつもこいつも……!」


 俺は慌てて口を開いた。


「俺のことはいいんだ。十分に納得はしてる」

「フィン、黙っていてくれ」


 クラウスが振り返り、低く言った。


「これは、我々の名誉に関わる問題だ」


 ガルド卿の表情が大きく歪んだ。


「愚かな真似を――」

「愚かなのはあなたですよ、ガルド」


 静かに、しかしはっきりとした声が響いた。

 開かれた扉の向こう。


 そこに立っていたのは、リリカとよく似た顔立ちの女性だった。


 落ち着いた物腰。

 しかし、その瞳には鋭さが宿っている。


「久しぶりですね、あなた」


 ガルド卿の顔色が変わった。


「……セレスティア。なぜ、ここに」

「王都での政務を終えて戻りました。それと――」


 彼女は謁見の間を一瞥する。


「随分とみっともない真似をなさっているようですね」


 空気が完全に凍りつく。


「あなたは忘れたのですか?」


 一歩、前へ。


「誰がこの領を救ったのか。子どもでさえその者の名を分かっています」


 視線が俺に向く。


「子供以下の認識しか持てない領主など、近隣諸侯の笑いものになります」

「……黙るのだ」

「黙りません。もしあなたが“娘が親しくしている男だから”という理由で、この結界師を不当に扱うのであれば。私はあなたと夫婦である意味を失います」


 謁見の間がざわめく。

 ガルド卿の顔から血の気が引いた。


「……ち、ちが……。セラ、違うんだ! 娘は関係ない!」

「では、なおさら悪いですね。たんに無能ということになりますから」


 ガルド卿を支えていた力が抜けていくような錯覚を覚える。

 彼は、妙に落ち着いた声で俺に向き直った。


「……褒賞に誤りがあった」


 ガルド卿はそう絞り出した。


「結界師フィン。金貨100枚。そして、領主邸近くの屋敷を与える」


 息を呑む音。


「さらに――」


 視線が俺を射抜く。


「今後、領主家直属の客人として遇する」


 セレスティアは満足そうに頷いた。


「妥当です」


 その時、小さな足音が響いた。


「……フィン」


 リリカだった。

 彼女はまっすぐに俺を見て微笑んだ。

 その表情は誇らしげで、俺は胸が熱くなるのを感じた。


「結界師フィン、娘があなたに礼を言いたいそうです。このあと時間をいただけますね?」

「はい。もちろんです」

「では、二人は先に行きなさい。私は夫と話すことがありますから」

「セレスティア、わしはリリカのためを思って……」

「いい加減、公私を分けてちょうだい。子供じゃあるまいし」


 ぴしゃりと釘を刺されて、ガルド卿は項垂れた。


 同情などしない。

 しかし、まあ……。


 領内の空気は随分と変わりそうだなと思った。

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