孤児院の再会
最初の給金袋は、思ったよりも軽かった。
厨房付きの副料理長。
肩書きは立派だが、辺境の台所事情は厳しい。高給とはいかない。
それでも――
(十分だな)
俺は市場の一角で足を止めた。
並んでいるのは木彫りの玩具や、粗い紙に刷られた絵本。
王都ほど華やかではないが、子供が喜びそうなものは揃っている。
「フィン、何を探してる?」
隣で籠を持つネネが首を傾げる。
「ちょっとな。お土産だ」
手に取ったのは、素朴な木馬。
もう一つ、小さな積み木。
それから、動物が描かれた絵本。
値札を見る。
一瞬、指が止まる。
(……結構するな)
贅沢品だ。
この金で干し肉を買えば、何日も持つ。
……などと考えてしまうあたりが、貧乏性なところだ。
だが、迷いは長く続かなかった。
「休日だからついてくる」と言ったネネがいる手前、格好悪いところは見せられない。
「これ、全部くれ」
「はいよ」
店主が嬉しそうに包む。
ネネが小声で言った。
「フィン、実は既婚者だったり?」
「そんな訳あるか」
「……じゃあ、どこかへ寄付するの?」
「まあ。ちょっと知り合いのところに顔を出すだけだ」
市場を抜け、城下町の外れへ向かう。
石畳が土道に変わり、建物がまばらになる。
やがて、古びた建物が見えてきた。
グランフォード孤児院。
門は軋み、壁の漆喰は剥がれている。
だが、庭はきちんと掃き清められていた。
扉を叩く。
少しして、中から中年の女性が顔を出した。
「おや、珍しい顔だ。カイルとユルに会いにきたのかい?」
「まあ、そんなところです。ヒルダ院長」
「物好きだねえ。お土産まで持ってきて」
孤児院のなかに通される。
すぐにカイルとユルが気づいて、駆け出してきた。
ヒルダに「走るんじゃないよ!」と注意されるが、あまり気にしてるようには見えない。
ぼろぼろの服。痩せた腕。
それでも、目だけは輝いている。
「フィン兄ちゃん!」
「フィンさん。本当にきてくれたんですね!」
俺は籠を差し出した。
「ほら。お土産だ」
一瞬、空気が止まる。
「……いいの?」
「ああ。喧嘩するなよ」
次の瞬間、歓声が上がった。
「僕、皆も呼んでくるよ!」
「いや、これはお前たちに……。行っちまったな」
「俺たちだけじゃもったいないよ」
そういって歯を見せて笑うカイルも、まっすぐな性根だなと思う。
それから、
木馬を抱きしめる子。
積み木を手に取る子。
絵本を奪い合う子。
子供たちが集まってきて、俺はもみくちゃにされながらお土産を配った。
「……騒々しいねえ」
「すみません。騒がしくして」
「感謝してんだよ。あんたみたいな立派な人がきてくれて嬉しいよ」
「ただの元冒険者ですけど」
そう言うと、呆れられた。
子供たちの輪から外れてきたユルが俺の袖を引っ張った。
「……お兄ちゃん、ありがとう」
別になんてことはしてない。
いつかのようにユルの頭を撫でてやる。
「腹減ってる奴はいるか?」
子供たちの視線が一斉に向く。
ヒルダはさすがに引いている。
「あんた、飯まで作ってくれるのかい?」
そのとき、門の外から馬車の音がした。
気になって窓から外を覗く。
ゆっくりと降り立ったのは、淡い色のドレスをまとった少女だった。
その姿を見たとき、俺は自然に駆け出していた。
「……フィン?」
リリカだった。
風に揺れる髪。
目が合った瞬間、驚きと――どこか嬉しそうな色が宿る。
「どうしてここに」
「それはこっちの台詞なんですけど」
リリカは少しだけ唇を尖らせ、それから微笑む。
「偶然ね。私も、寄付に来たところなの」
外に出てきた子供たちが、俺たちを交互に見比べる。
静かな、けれどどこか運命めいた再会だった。




