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無能と追放された結界師、辺境伯の娘に拾われて年の差婚する  作者: かにょん


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距離※リリカ視点

 厨房でフィンが活躍しているらしい。

 そんな話を最初に聞いたのは、ネネからだった。


「リリカ様。フィンはすごいんです」

「……何が?」


 何でもない風を装ったつもりだったけれど、声が少し上ずったのを自分でも自覚した。


「厨房で捨ててた骨と皮とかを使って、すごいスープを作ったそうです。最近、ご飯が美味しいと皆言ってます」

「そう……。あの人が作ってたのね」


 胸の奥がきゅっと締めつけられる。


 彼のことが誇らしい。

 けれど同時に、どこか遠くへ行ってしまったような気もした。


「フィンは皆にレシピを教えたそうです。リリカ様に恩義があるから、皆にも共有するって言ってたみたいです」

「私? 噂に尾ひれがついたとかじゃなくて?」

「本当です」

「……そう。あの人らしいわね」


 ネネは不思議そうに首を傾げていたけれど、私はそれ以上、何も言えなかった。


 ――話しかけないと決めたのは私だ。

 父の前で声をかければ、彼の立場は危うくなる。


 だから距離を取った。

 正しい判断だったはずだ。


 でも、その距離に一番傷ついているのは私だった。

 守るために身を引いたはずなのに。


 隣で話せなくなっただけで、こんなにも寂しいなんて。

 たった九日間の旅路だったけど。

 今でも夢に見るのはフィンの横顔ばかりで。


「……本当にバカね」


 小さく呟いて、ネネには笑顔を見せる。


 彼女からフィンの話を聞けるのは嬉しい。

 でも、同時に彼女だけがフィンと親しく話せるのはズルいとも思う。


 フィンは、今日も厨房で鍋を振っている。

 この領地のために。

 誰にも期待されなくても。


 それが誇らしくて。

 それ以上に切なかった。



 ◇



 ――その日の午後。

 廊下を曲がった先で声が聞こえた。


「フィン! 昨日のスープまた作るの?」


 ネネだった。

 彼女は私に気づいてない。

 ネネは何のためらいもなくフィンの隣に立っている。


「今日は別の仕込みがある」

「えー。じゃあ明日ね。約束だよ」

「お前の頼みを聞いてたら、毎日同じスープになるだろ」

「いじわる!」

「うるさい。ワガママ娘」


 フィンは困ったように笑って、ネネの頭を撫でた。

 瞬間、ガツンと頭を殴られた気分になった。


 あんなの、どう考えたって女性扱いしてるわけじゃない。

 ただ、そう、年の離れた妹と接してるみたいな。


 そう自分を納得させようとしても、胸の奥がズキズキと痛む。


 ネネは悪くない。

 私が一方的に意識してるだけだ。


 私は彼にお嬢様として接し、彼は私を領主の娘として扱う。


 それが正しい。

 理屈では分かっている。

 でも……。


 皆がフィンと関係を深めるなか、私だけが以前より遠ざかってる。


(……私だってフィンと話したいのに)


 ネネが去ったあと、フィンはふっと表情を引き締めて、周囲を見回した。


 そして――私に気づいた。


 一瞬、目が合う。

 けれど、彼はすぐに姿勢を正した。


「……失礼いたします、お嬢様」


 彼だって、私のために距離を守っている。

 ……そのはずだ。


 守られているのに、こんなにも寂しい……。

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