永い夜
話そうと言ったもののカウは黙っていた。話さないわけではなく、何を話そうか迷っている感じだ。その間の沈黙が永遠のように感じられた。
「きみは・・・」
ようやくカウが口を開く。
「自分が桃太郎ということをどう思う?」
やはり一番気になることはそれかと思った。
「どう思うと言われても正直わかりません。周りから桃太郎と言われているからそうなのかなくらいで、実感もないんです」
「だろうね。証明するものと言えば、その刀と鉄扇くらいかな?それらは女神様からもらったものだろ?」
「はい、この世界に来る前にもらいました」
「やっぱり。
はっきり言うと私はきみを認めていない。いや、まだ信じられないといった方が正しいかな?でもローヤルはきみが桃太郎と信じているみたいだけどね」
「なんでローヤルさんは信じてくれているんですか?」
「それは自分で直接聞くべきだ。でも、一つ言えることは彼女は鼻が利くんだ」
ローヤルが犬族だからそんなことを言っているのか、それともちょっとしたジョークのつもりなのかはわからなかった。
「どちらにせよ、この世界できみは桃太郎として生きていかなくてはならない。実感があろうがなかろうが、ましてやそれを望まないにしてもその名前の重さを受け止めなくてはいけない。大変なのは認めるがね」
あの一件以来ずっと考えていたことだ。この世界でのこれからの生き方を。もちろんまだ答えは出ていない。しかし、一つだけ決めたことがある。
「実はこの村に来る途中で野盗に襲われたんです」
「聞いているよ。馬車にローヤルがいるなんてその野盗も不運だったね」
「その時僕は何もできず、ローヤルさんに護られただけだった。だから、その恩は返したいと思っています。すみません。桃太郎とは何の関係もなくて・・・」
カウはすこしだけ笑う。
「いい心がけだ。でも彼女は恩を返してくれなんて思っていないよ。その代わり今度はきみが誰かを護ればいい。世界はそうやって廻っていくものだ。だけど、彼女にはしっかりお礼をしておくように、ああみえてそういうのを一番喜ぶからね」
褒められた気がして僕は嬉しかった。それにあの男と同じことを言うんだなとも思った。
「私ばかり話して悪い。きみとゆっくり話をできる機会をうかがっていたんだ。ローヤルがいるとうるさいからね。
折角だ、もし質問があれば答えるよ」
カウはウエルカムとばかりに両手を広げる。
「それじゃカウさんは本物の桃太郎に会ってるんですよね?どんな人でした?」
「きみも本物だろ?なんてチャチャはやめにしよう。
どんな人というのも説明が難しいな。一つ言えるのは、私は桃太郎様に救われたんだ。あの時はあまりいい環境にいなかったからね」
この人もそうだった。ローヤル同様、桃太郎に救われた人だ。また名前の重さが増していく。
「しかし、初めて村に来たときは大変だったよ。【俺は桃太郎だ】なんて言っていたが、桃太郎なんて誰も知らないし、ましてやその隣には狂犬がいたからね。村中がパニックになったよ」
カウはその時のことを思い出したのか笑い出す。
僕はこの村でも同じことを言っていることに驚いた。犬族の村で懲りたと思っていたのに・・・。
それよりも狂犬の方が気になった。
「あの狂犬というのは?」
「あぁローヤルのことさ。聞いていないのかい?」
「そういった話はなにも・・・」
以前に村では厄介者扱いと言っていたことを思い出す。それはこの呼び名に関係しているのか?
「彼女はあまり昔のことは話さないからね。いいかい?狂犬というのは昔のあだ名だ。今でこそ落ち着いてはいるが、昔はとにかく気性が荒くてね。すぐ誰でも斬り殺すなんて、そんな噂がこの村にも届いていたくらいだ。それでついたあだ名が狂犬さ。
で、そんな彼女を得体のしれない男が連れてきた、というわけさ。村からしたら大事件だよ。さらに、自警団が出てきたら彼女は何も言わず襲い掛かるし、挙句には二人とも捕まり殺されかけてもいるからね」
想像しただけで胃が痛くなるような話だ。
「それどうなったんですか?」
「自警団が桃太郎様の荷物を確認したら、王様からの書状が出てきて一件落着!」
それ書状見つけるの遅かったら死んでたよね?どんな綱渡り人生を送っているんだ・・・。
「それは大変だったんですね」
かける言葉がみつからず当たり障りのない言葉になる。
「今思い返すと笑える思い出だけどね」
カウは遠くを見る。きっと昔のことを思い出しているのだろう。
僕はもう一つ聞きたいことがあった。
「あと聞いていいかわからないんですが・・・」
カウの翼を見る。
「翼のことかい?確かに片方しかないのは気になるよね」
「・・・はい」
「別に怒ったりしないよ。これはね生まれつきなんだ。私は片翼で生まれてきた。そのせいでね、子供の頃は苦労したね」
さっき言っていた、あまりいい環境にいなかったってこれが関係しているのか。
「私は翼が片方しかないせいで、他の者より魔力が半分程度しかないんだ。そして、単純に見た目の問題もあってよくバカにされたものさ」
子供の時そういったことはいじめの標的になりやすいのは種族関係ないんだなと思った。
「大人になってからも魔力量が少ないことで役立たずだと除け者にされてもいたよ。実際自警団にも入れさせてもらえなかった」
「どうやって仲間になったんですか?」
「それは桃太郎様に指名されたから。
その時の族長は自警団の誰かを行かせるつもりだったらしいけどね」
ローヤルの時と同じだ。村推薦の強いものではなく、自分で指名をして仲間にする。
言い方が悪いが、問題がある二人をだ。なにか理由があったのだろうか。
「すこし話過ぎたかな。付き合ってもらって悪いね。もう夜も遅いから寝ることにしよう。
ゆっくりきみと話せてよかったよ。また明日も朝から稽古頑張ってくれ」
「いえこちらこそありがとうございます。話が出来てよかったです」
僕もお礼を言った。本当に話せてよかったからだ。すこしだが打ち解けられた気がしたから。
部屋に戻り、寝る準備をする。
また明日も朝から稽古だ。
毎日ローヤルがたたき起こしに来るのだが、とてもうるさく部屋に入ってくる。もう少し起こし方を考えてはくれないだろうかと思うが、そんなこと無理だなと考えていたらいつの間にか眠ってしまった。
深夜、僕はいつも起こされる以上の爆音で起きることになる。
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