雉 カウ・ミーガリア②
「お前は相変わらずだな。人の話も聞かずに初対面の女を口説いて呆れる」
その意見にはおおむね同意しますけど、突然殴るあなたも大概ですよ?と僕は思った。
「いやー久しぶりだってのにいきなり殴るかね。
会わない間に多少はおしとやかになっているのを期待したんだけど、より激しくなっているね、きみは」
カウは何食わぬ顔で壁から出てこちらに歩いてくる。
顔には特に傷のようなものは見当たらないことに驚いた。また事前に聞いていた通り、カウの翼は片方だけだった。
「勝手に言ってろ。
それより今日は大事な話があってきたんだから黙って聞け」
「70年ぶりなのに釣れないね。酒でも飲みながら昔話でもしようじゃないか・・・と言いたいけど、そんな感じでもないみたいだね」
カウは僕とメリーダを見る。
「初めまして、私はカウ・ミーガリア。さっき私を殴った暴力女と以前旅をしていたものだ。
で、おふたりはどなたかな?」
「初めまして。私、王国鑑定士のメリーダと申します」
男は満面の笑みを浮かべる。
「そんな素晴らしい女性だったとは。やはり貴女のような高貴な方が私の相手には相応しい。ぜひ結婚しましょう」
カウはメリーダの手を取る。
「お前はもう一発殴られたいのか?」
「まさか、さっきの一発で十分だよ。
で、そちらの坊やは?」
坊やってなんだよと思ったが、この人からしたらそうなのかもしれない。
「こちらは桃太郎様です」
メリーダが答えると部屋の空気が張り詰めた。
「桃太郎・・・。それ本気で言ってるのか?」
なぜかカウの言葉には怒りが含まれていた。
温厚な奴って聞いていたんですが・・・。
「落ち着け。メリーダは本気で言ってるし、俺も同じ意見だ」
「きみも?なにを言ってるんだ、この手の話はきみが一番怒ることじゃないか。
昔、桃太郎様を名乗る偽物が現れた時だって真っ先にきみが斬り殺しただろう」
カウは驚き大声で叫ぶ。
なにその怖すぎる話。初耳なんですが・・・。いやむしろ知りたくなかった話だ。
下手したら最初に会った時にそうなっていた可能性があったことに僕は青ざめた。
「確かにそんな事もあったな。あの時は俺も若かったからな。
とりあえず一旦二人で話そう。族長、別の部屋を貸してくれ」
「えぇ、かまいません」
二人は別室に移動した。
三人だけになった部屋はとても静かで気まずかった。
そんな中、族長が口を開く。
「すみません。私も気になるのですが、そちらの方が桃太郎様なんですよね?
もちろん以前の方と別人なのはわかりますが・・・なんというか・・・」
族長は言い淀む。
きっと頼りないと思っているに違いない。だって僕が一番頼りないことを知っているから。
「先ほどもお話ししましたが間違いありません」
メリーダはいつも通り言い切る。
僕はこの自信とメンタルの強さは見習いたいと思った。
「まぁローヤルさんもそうおっしゃっていましたから大丈夫ですね」
族長はまだ完全には納得していない感じではあったがこれ以上何も言わなかった。
ほどなくして二人が部屋に戻ってくる。
雰囲気から察するにあまり話がまとまっていない感じだ。
「待たせたな。カウが一緒に旅をするぞ」
しかし、ローヤルからは予想外の一言が出る。
それに一番慌てたのはカウ本人だった。
「いやまだ決まってないだろ。きみはせっかちと言うか早とちりと言うか・・・」
「さっき俺を信用するといっただろう」
「一旦だ、一旦。それにきみが言うならそうなのかもなと言っただけだろ」
「同じことじゃないか」
「全然違うだろ。話が飛躍しすぎなんだよ」
「相変わらずお前は理屈っぽくてめんどくさい奴だな」
「どう考えてもきみが短絡的すぎるだけだろ」
二人のやり取りに誰も入れず聞いているしかなかった。
「とにかく一緒に旅をするかはすこし考えさせてくれ。
最近村で気がかりなこともあるから」
「気がかりなこと?」
カウは族長を見る。
話していいか確認しているようだ。
「その件は私から話そう。実は最近村の近くでボヤ騒ぎがよく起きていてね。
みんな心配しているんだ」
「今の時期なら多少は起きるだろ?」
「もちろん例年山火事にならないようなボヤ騒ぎはあるさ。しかし、今年はほぼ毎日起きている。これは異常なんだよ」
「まるであの時みたいにか?」
ローヤルがそう言うとカウは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あぁ似てる。だから気になってね。
とりあえず一週間くらいは答えを待ってほしい」
「そういう事情なら仕方ないな。その間村に滞在させてもらおう」
「なら早速二人が泊まれる場所を手配するよ」
二人?三人の間違いだろと思った。
しかしすぐその理由がわかる。
「もちろんきみは私の家に招待するよ」
カウはメリーダの手を取る。
なるほどそういうことか。
が、その手をメリーダは振り払う。
「お断りします」
「どうやらお前嫌われたな」
ローヤルは笑い、メリーダは軽蔑し、カウは落胆した。
そんなやり取りをしながら四人で部屋を出ていこうとした時だった。
「すみません。最後に一つよろしいですか?」
族長は穏やかな口調で僕たちを引き留め壁を指さし一言。
「壁の修理費用はどなたが払ってくれますか?」
「それは王国だろ」
ローヤルはなんの躊躇いもなく即答する。
その時のメリーダの顔を一生忘れることはないだろう。
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